破局は極上の恋の始まり? 恋人に振られたら幼馴染にプロポーズされました【交際0日婚シリーズ】
「それはどっちの?」
「スタイリストに決まってるよ」

 からからと氷とグラスがぶつかる音がする。

 それに耳を傾けつつ、私はユウちゃんの言葉を待った。……ユウちゃんは、「そうねぇ」と頬に手を当てる。

「まぁ、そこそこってところかしら」
「そのキャラ付けって、スタイリストとして生きていく術なんだっけ」
「キャラ付けって言うな」

 スタイリストって女性の世界らしい。なので、ユウちゃんはそこで生きていく術として、オネェ口調でしゃべっている。

 こういう人はその業界に一定数居るとか、なんとか……。

(しかも、妙にウケがよくて、バーでもこの調子だし……)

 そんなユウちゃんのことを、私はひそかに『ビジネスオネェさま』と呼んでいた。

 お仕事に貪欲なところも、必死なところも。本当に、かっこいいと思う。平凡な会社員の私とは大違い。

(私もユウちゃんくらい面白かったら、フラれずに済んだのかなぁ……)

 そんなことを考えても意味なんてない。後悔先に立たずというし、忘れたほうがいいのは重々承知。

 でも、初めての恋人だったし。

(告白されたのも初めて、付き合ったのも初めて。キスだって……ハジメテ、だったのに)

 彼にとって、私は所詮その程度の相手だったんだろうな。……悲しいことに、私は色気ゼロですし。

「まぁ、葵ちゃんにも良い人が現れるわよ。……いつか」
「いつかっていつ? 何年の何月何日?」
「……面倒な小学生みたいね」

 ユウちゃんはそう言うけれど、実際これはかなりの死活問題だ。

 恋の傷を癒すには新しい恋っていうけれど、それもこれも出逢いがあってこその話。

 出逢いがないと、なにひとつとして解決しないんだ。
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