10万円のお賽銭
「こんにちは。あけましておめでとうございます。」


 白い衣装に身を包み、朱い袴を履き、髪の毛を低い位置で一括りにした私は、
神社で、参拝客にそう声をかけて回っていた。

 そう、私のバイトは巫女さんである。

 12月31日から1月3日までの短期バイトで、お札やお守りを授与したり、参拝客に甘酒を配ったりするのが主な仕事だ。
元々日本文化が好きだった私は、近所の神社で募集をしていると聞き、応募してみた。
いつもは参拝客側の私が参拝客を迎える側にいることが、とても新鮮に感じられ、応募してよかったとすぐに感じた。


 参拝客に声をかけながら、ふと拝殿(賽銭箱があり、神を拝むところ)の近くを通った。
そのとき、1人の若い男性が賽銭箱の前に立っているのを見かけた。


(あの人は何をお願いするのかな。)


男性は斜めがけバックから封筒を取り出した。


(……? あの封筒は何だろう?)


すると、男性はその封筒から何か紙のようなものを抜き取って行く。


(……?)


そして、その紙のようなものを数枚美しい手付きで抜き取ると、お賽銭箱に投げ入れた。


(えっ……! 何を入れたの……?)


すると男性は、くるっと踵を返し、お祈りもせず立ち去った。


何を入れたのか気になった私は、お賽銭箱の中を除いてみた。
そして、中に入っているものを見て、思わず叫びそうになった。

なんと、1万円札が数枚入っていたのである。
1,2,3,……、おそらく、10枚程ある。

ってことは、あの人10万円も入れたってこと……⁉︎

なんのために?
お祈りもしなかったのに?
なんか企んでる?
なんかあったのかな?


色々考えていてもきりがない。
巫女は境内を走ってはいけないので、いつもよりほんのちょっと速いペースで歩いて、10万円の男性を追いかけた。


ーー


< 2 / 6 >

この作品をシェア

pagetop