三途の駅のおくりもの



 会えるかもしれないし会えないかもしれない。そう伝えると舞依は、ここにまた来てほしいと提案してきた。ここは人気(ひとけ)のない山の近く。俺は新天地の散策で通りかかっただけで、もうこんなところに用はない。そもそも舞依だってここで何をしていたのだろう。ただ、そこまで言うのなら。


「気が向いたら、また来る」


 暇潰しになら来てもいい。そう言うと舞依はうれしそうに笑うから、本当に変な奴だと思った。





 それから、俺が気まぐれにあの場所へ向かうと、舞依とは会えたり会えなかったりした。電車も同じく、来たり来なかったり。そして来るときは必ず、誰かが乗っている。魂というのは、その人と同じ姿をしているらしい。


 舞依はそれを見るたびに、瞼のふちをきらめかせて、切ない表情を浮かべる。死ぬ人を見るのがつらいなら、こんなところに来なければいいと言ったことがある。


「昔、私のおばあちゃん、一人で住んでてね。ずっと誰にも会えずに、ひとりぼっちで死んじゃったの。おばあちゃん、さびしかったと思う。……だから、そうやって見送られない人が少しでも減るように。私は、あの電車をなるべく見ていてあげたいんだ」


 それでも、つらいならやめればいい、そう思う俺は冷酷なのかもしれない。人が死ぬのは当然のことだ。でも、舞依が優しいということはわかる。舞依が誰かにそうしてあげたいと願うのを、俺は止めない。


「……お人好(ひとよ)し」


 ただせめて、舞依が背負っているものが少しでも軽くなればいい。そんなおせっかいの焼き方すらわからなくて、口から出たのはつまらない言葉だった。舞依は、困ったように小さく笑うだけだった。


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