不倫日和~その先にあるもの……それは溺愛でした。
番外編

 * 番外編 *

「お前の最近の行動は目に余るぞ」

 俺の名前は京極紫苑(きょうごくしおん)。京極グループの社長で、蒼紫の実の兄だ。兄として今日こそ蒼紫に一言いわなくてはならない。

「何が目に余るんだ?」

「毎日、菫花さんにベタベタと……それに子供のような言動もだ」

 最近の蒼紫は菫花さんにベタベタとくっついては、子供のような言動を繰り返していた。それを菫花さんが(いさ)め、頭を撫でる。そんな日が続いている。

「…………」

「黙っていると言うことは、自覚はあるんだな」 

 俺はフーッと息を吐き出した。

「兄さんは最近の菫花を見てどう思う?」

「は?どうって……明るくなったと思うが?」

 菫花さんは出会った頃より明るくなった。表情もコロコロと変わるようになり、人間らしくなった。蒼紫は感情の無い人形のような顔は二度とさせたくないとそう思っているのだろう。それは分かるが、度を超した言動が多すぎる。これでは社員達にも示しがつかない。蒼紫は京極グループの副社長なのだから……。もう一度溜め息を付こうとしたところで、蒼紫が口を開いた。

「兄さん、俺は菫花の時々見せる感情の無い無表情な顔を見ると、不安が押し寄せるんだ。菫花はワガママを言わない。いつだって自分を押し殺して生きている。いたたまれないよ。もっと俺に感情をぶつけて欲しいのに……」

「好きな人に素直になってもらいたいと言うことか……それは分かるが、その話とお前が子供のような行動を取る話は繋がるのか?」

「…………」

 押し黙る蒼紫の肩を俺は優しく叩いた。

「何か考えがあるんだろう?」

 コクリと頷いた蒼紫は、ゆっくりと話し出した。

「菫花は……自分の感情をさらけ出す事が苦手だろう……。だから俺が全てをさらけ出すんだ。大袈裟にでも菫花への思いも全てをさらけ出して、菫花の感情を引き出す」

「だからってやり過ぎじゃ無いか?社員達に示しがつかないだろう」

 蒼紫は首を左右に振った。

「示し?そんなもの俺にはどうだって良い。社員達に(さげす)まれても、バカにされたってかまわない。仕事はきちんとしている。社員達に何を言われたっていい。菫花の為なら恥も外聞もなく泣き叫ぶことだって出来る」

 そう言って俺の目を真っ直ぐに見る蒼紫の姿に、父さんの姿が重なった。父さんも一途に母さんだけを思っていた。いい年をしてイチャつく二人を恥ずかしいと思った頃もあったが……そうか。

「分かった。だが、社員達の前では止めてくれ。お前は副社長なんだ、人前でやり過ぎると菫花さんにも迷惑を掛けてしまうぞ」

「…………」

「返事は?俺はお前を心配しているんだ」

 俺の気持ちを伝えると、蒼紫が肩をすくめた。

「兄さん……ありがとう」

 手の掛かる子ほど可愛いとはよく言ったものだ。素直にお礼を言う蒼紫の背中を、俺は強めに叩いた。その時、部屋にノック音が響き入室を許可すると菫花さんが入って来た。すると先ほどの俺の話を聞いていたはずの蒼紫が菫花さんに飛びついた。

「蒼紫、俺の話を聞いていたか?」

「聞いていた。社員達の前でなければ良いんだろ」

「まあ……そうだが……」

 言い淀む俺を無視して蒼紫は菫花さんに抱きつき、嬉しそうに笑っている。そんな蒼紫の頭を菫花さんが愛おしそうに撫でていた。

 社員達の前でイチャつくのを止めてくれるなら、ここは良しとするか。

 俺は二人にきちんと仕事をするように伝え、副社長室を後にした。

 二人が幸せならそれでいい。

 父さん……父さんが生前気に病んでいたあの子は幸せそうですよ。

 俺はフッと口角を上げると、家で待つ家族を思い出していた。

 俺も早く帰って奥さんと、娘とイチャつきたい。

 俺は急いで社長室へと向かい、その後物凄い勢いで仕事を済ませたのは、言うまでもないだろう。


    * FIN *






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