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ここは、東京の都心。
 ある晴れた夏の朝だ。
 セミがミンミン鳴いている。
 2023年になって、新型肺炎コロナウイルス感染症が、収束をした。
 ここに40代の会社員の男性、シンイチがいた。
 シンイチは、東海道線で、都心まで来て、品川で乗り換え、そのまま山手線で、新宿に向かっていた。
 まだ、新型肺炎コロナウイルス感染症が、収束をしたと言っても、まだ、マスク着用をしている人が多くいる。
 シンイチは、スマートフォンで、お気に入りの音楽を聴きながら、周りには、シンイチと同じように、会社へ向かう人が多くいた。
 シンイチは、もう若くないと思っていた。
 日差しが厳しい中、シンイチは、麦茶を飲んで、会社へ向かった。
 いや、シンイチは、一度、前の会社を辞めた。
 理由は、シンイチを、誹謗中傷した同僚がいて、それで、揉めて辞めた。
 辞めて、それで、今の会社に来たのだが、もう5年は経ったと思う。
 シンイチは、そんなに器用ではなかった。
 そして、辞める会社では、20代の帰国子女の女性が、シンイチを見くびったばかりに、彼女が、ー本当は、仕事のミスをしたのだが、それでもー何となく、気まずい雰囲気になっていた。
 そして、その20代の帰国子女のアメリカ帰りの女性に「そんなに、個人的に文句があるの」と言われ、辞めた。
 いや、もう40代の半ばになったシンイチは、もう、我慢できる余裕はなく、しかし、東京や横浜以外の街へ出かけることもなく、このまま今の新宿の会社にいる。前の会社よりも給料は安いのだが。
 そして、今日も、シンイチは、会社で、事務の仕事をしていた。
 そのまま、シンイチは、昼ご飯になって、会社の屋上へ出かけた。
 そして、そこで、コンビニで買った弁当を広げていた。
 空は、晴れている。
 そして、屋上から、外を見たら、そこには、都心の高層ビルが建っている。いや、こうした時に、シンイチは、一人で、誰もいないから、ふと歌いたくなってきた。
 ー夢を信じて生きていけばいいさと
 徳永英明『夢を信じて』を歌っていた。
 シンイチは、中学生の時、歌っていた。
 それで、シンイチは、そのまま、中学時代は、本当は、軽音楽をしたかったのだが、しかし、シンイチは、恥ずかしくて、陸上部にいた。
 陸上部にいて、200m走を走っていたのだが、選手になって頑張っていたのだが、高校時代、県大会で、怪我をして、挫折をした。
 更に、高校時代、彼女もいたが、振られた。
 シンイチは、90年代の高校時代、Mr.Childrenの『tomorrow never knows』や『名もなき詩』を歌っていたが、今では、それは、カラオケだけだったと気がつく。
 いや、40代後半になると、シンイチは、恥じらいもなく、屋上で、歌っても、誰も、笑う人はいないから、歌うようになってきた。
 ただ、彼女もいないし、例えば、いきものがかりも吉岡聖恵や水野良樹みたいになれないから、とも思っていた。
 そんな矢先だった。
 パチパチと拍手があった。
 誰だ?
 シンイチは、あたりを見渡した。
 そこには、20代の同僚。
 サトミがいた。
「先輩」
「何?」
「歌、上手いじゃないですか」
「聞いていたのか?」
「いや、だって、先輩、いつも一人でご飯を食べているから、何をしているのか、と思って」
 サトミは、そうだ、有村架純に似ていると言える。
 だが、本人は、そう言われると「私の方が、可愛い」と言う。だけど、本人は、アイドルが好きらしい。
「先輩は、徳永英明を歌っていたのですか?」
「そうだよ、よく分かったね」
「うん、だって、私もYouTubeでよく聴くから」
 と言った。
 サトミも、同じ時期に、会社に入った同期だ。
 同期とは言っても、年齢で言えば、18歳近く離れている。
 そう言えば、『ヤングマガジン』で連載されている『パリピ孔明』を、シンイチは、スマホでよく観ている。
 月見英子は、自殺をしそうになった女性だが、そして、自己肯定感が低い女性だが、シンイチだって、実は、自己肯定感が、低い。
 そんなに自信が持てない男性だ。
 実際には、そうだろうと思う。
 反対に、いつからサトミは、ここにいたのか不思議になってきた。
 いや、女は謎だ。不思議な生き物だとも思う。
「先輩」
「何?」
「私も、歌います」
ーさくらひらひら舞い落ちてきて
「いきものがかり『SAKURA』だね」
「ええ」
「だけど、もう、桜の時期ではないね」
「ええ」
「今は、蝉が鳴いて、台風の時期ではないか」
「うん」
「自分、空気読めないのか?」
「まあ、私も、空気が読めないかも」
 と思っていた。
 そして、そのままサトミは、また歌った。
「サヨナラは、悲しい言葉じゃない」
 と歌った。
「いきものがかり『YELL』だね」
「うん」
「こんな切ない曲」
「私、アメリカ帰りの帰国子女なんです」
 え…とシンイチは、思った。
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