その手で結んで
翔琉side
『カノジョ??』
恋人だと認識されてない、その事実を突きつけられ、目の前が真っ暗になる。
舞白の人間関係を把握し、外堀を埋めて逃げられない状況をつくっていながら、当の本人には恋人だと思われてない。なんて滑稽なんだ。
今の今まで…?
沸々と湧き立つ思いを無理やり押し込み近くにあった水を飲む。
そして勢いよくドアノブを掴んで扉を開いた。
ギョッとした舞白を捕まえて座らせた。
翔琉を見る舞白の瞳は怯えている。
目を伏せてゆっくりと数を数えた。
落ち着け、感情のまま動けば舞白はもっと怖がり逃げる。舞白の鈍感さに苛立つが、こうなったのも思いを伝えなかった俺の落ち度だ。今からでも遅くない。絶対手に入れる。
翔琉は冷静さを取り戻し、ゆっくりと息を吐いた。そして勘違いを一つずつ正していく。思いを伝えるのは怖かった。でもその後の舞白を見ると可笑しな顔をしていて全部がどうでも良くなる。
気づけば舞白の頬に手を添えて口づけた。
気持ちを言葉にできなかったのは舞白に拒まれるのを恐れていたから。それも今はどうだっていい。舞白に嫌でも意識させる。
もし、拒否して嫌われたなら?
そのときは‥‥
薄暗い感情が舞白を思う度にどんどんと濃さを増す。
考えるばかり、何度も唇を貪った。
「舞白」
好きだよ、離れないでそばに居て。
唇を離すと舞白は真っ赤な顔をしながら肩で息をしていた。眉が下がり、うるうるとした瞳でこちらを見る。
「あー、可愛い」
思っていたことが口に出ていた。舞白の溢れた涙を拭えば茹でたこのように真っ赤だった。
このまま堕ちて。なんて淡い期待をしていたけど、舞白は流されたりはしなかった。
舞白にキスを止められムッとしていたが、
ちゃんと考えて返事をすると約束してくれた。
でも、舞白は気づいていないのだろうか。
さっきのキス、嫌がらず従順に受け入れてたこと。今でも繋いだままの手。抱きしめたら抱きしめ返してくれるこの両手。そして全てに違和感を感じなくなっているってこと、気づいてる?
舞白が本気で嫌がってないってことは気づいてる?
だからって、教えないけどね。
「返事を待つよ、でも気が短いから待つのに疲れたら意地悪はするかもね」
と、耳元で囁いてからキスをした。
「な、なっ!!?」
慌てる舞白を見て翔琉は笑う。
本当に舞白は可愛い。
舞白の手を握り、指を絡めて遊ぶ。
柔らかくて細い薬指に何度も触れた。
運命の赤い糸があるなら、ここに括り付けて固く結んであげる。
離れないように
何度も
この手で結んであげるから
ずっと一緒にいようね舞白。
「その手で結んで」

