僕の秘書に、極上の愛を捧げます
プロローグ

Side 翔子

「それ、僕でもいい?」


えっ。
もしかして、デスクで呟いたのが専務に聞こえたの?

『誰かに、ぎゅっとしてほしい』

このところ、いろいろなことがあって。
特に、最近専務付きになったコンサルタントに振り回されることが多く、心のエネルギーを消耗していたのだ。

「僕の大事な秘書のリクエストだ。誰か・・に指定が無いのなら、僕じゃダメなのか?」

「そんなことは・・ありませんけど・・」

私が曖昧に答えると、専務は椅子から立ち上がり "おいでおいで" と手招きした。
気が引けるものの、専務のデスク前まで近寄る。

「・・っ!」

思わず息を飲んだ。
専務が私の背後に移動し、後ろから私を覆うように腕を回したから。

やわらかく抱き込み、私が拒否反応を示さないのを確かめてから、もう少し腕に力を込める。

これは・・一体どういうことだろうか。
いま私は、専務に『ぎゅっ』とされている。

「どう?」

耳の後ろから、専務の低音ボイスが聞こえる。

「どう・・と、言われましても・・」

「宮田(みやた)さんが疲れているのは、元を辿れば僕が原因。だったら、僕がリクエストに応えるのは当然だと思うけど」

専務は帰国子女なのだ。
専務にとって、ハグは特別なことではない。

「あの・・もう、大丈夫ですから」

なんだかいたたまれなくなり、私はするりと専務の腕から逃げ出し役員室を後にした。



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