僕の秘書に、極上の愛を捧げます
給湯室に向かおうとした私に向かって、彼がすれ違いざまにパチンとウインクしながら『ゆっくりでいいから』と言う。

つまり、すぐに戻ってこないで・・という意味だ。

役員室に残った3人がその後何か話をしたのか、それとも何も話していないのかは敢えて確かめなかったけれど、私を助けてくれたことに変わりはない。
社長も、彼も。

それにしても、遠藤のあのセリフが引っ掛かる。

『成宮専務次第・・ですよ。僕は宮田 翔子を諦めたつもりはないので』

専務次第・・とは、どういうことだろうか。
遠藤は、彼と私がお付き合いを始めたことを知っているの?

気になったものの、彼とのことを遠藤に振り回されたくなくて、頭の片隅に追いやる。

頃合いを見てアイスコーヒーを淹れ、役員室に戻る。
既に遠藤の姿はなく、社長と彼がミーティング用のモニタを見ながらディスカッションをしていた。

「お待たせしました。あの・・」

「遠藤さんなら帰ったよ。頼んでいる契約の書類に、押印するだけだったからね」

「そう・・でしたか」

「宮田。宮田のことは成宮が守ってくれるさ。宮田は成宮を信じてやること、それだけだ。まぁ、どうしても我慢できなくなったら仕方ないけどな」

信じること・・。
彼を、信じること。


その時。
コンコンコン。
役員室のドアがノックされた。

誰だろう。
特にこの時間の約束は無かったはずだけれど。

「はい」

ドアを開けると、その向こうにはグレーのスーツに身を包んだエレガントな印象の女性が立っていた。

「こちらに成宮 恭介がいると聞いてきたのだけれど・・。アシスタントさん、かしら?」

にっこりと微笑む女性の雰囲気に圧倒され、私は頷くことしかできずにいると、その女性は私の横を通り抜け役員室に入る。

「恭介・・・・ようやく見つけたわ」

そう呟いた女性に、社長と私は釘付けになった。



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