僕の秘書に、極上の愛を捧げます
帰宅し、ドサッとソファにもたれかかる。

アルコールが回っていて少しふわっとした感じと、遠藤とのわだかまりが無くなり気持ちが軽くなった感覚があるものの。

音信不通の彼に抱いている虚無感が重くのしかかる。


ブブブ・・・・ブブブ。

ソファの前にあるテーブルの上で、スマートフォンが振動している。

もしかして・・恭介さん?
ディスプレイを覗き込んだものの、そこには『非通知着信』の表示。

無視していると、しばらく振動して途切れた。
そしてすぐ後に別の短い振動があった。

『翔子と話ができて嬉しかった。また、メシ行こう。』

表示された遠藤からのメッセージを読みながら、私は思わず呟いた。

「恭介さん・・・・あんまり何も無いと、気持ちが傾いてしまいそう・・」

それではいけないと、頭では理解している。
でも、不安・・なのだ。

社長も佐伯さんも彼を信じろと言うけれど、信じるに足る材料が不足している。

気持ちが通じ合って間もない上に、何か明確な約束があるわけでもない。

届くのは、業務連絡だけ。
彼と私をかろうじて繋いでいるのは、この連絡のみで、その内容は当たり障りのないものばかりだ。

近況連絡すらない、箇条書きの指示だけが並んだ数行のメールと、その末尾に必ず書いてある『返信不要』の文字。

指示された内容は全て社長に報告することになっていて、社長も『お疲れさま』と言うくらいだった。

ニューヨークは、いま朝の8時くらいだ。

目を閉じると、オフィスに出勤してくる彼のスーツスタイルが浮かんでくる。
今、そのスタイリッシュな彼の隣にいるのは、いったい誰なのだろう。

私・・じゃないんだ。
考えれば考えるほど苦しくなって、涙が溢れた。

思い余ってスマートフォンに手を伸ばし、彼の連絡先を表示したものの、ここで拒絶されたらもう立ち直れないような気がして、私は何もせずに画面をオフにした。



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