【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
「……おい、リスター辺境伯だぞ。しかし……同伴している女性は、誰だ?」

 そんな声が聞こえてきても、お構いなし。時折ギルバート様が苦しそうな、悔しそうな表情をされているのは、私のことを思ってくださっているから……でいいのよね? けど、苦しそうなのはまだしも、悔しそうな表情の意味は分からないわ。……だけど、それよりも。

(……ギルバート様のお隣に並んでいて、恥にならないようになりたいの)

 社交界なんて、足の引っ張り合いで蹴落とすことなんて当たり前。貶すことさえも普通に許される世界。ならば、私のことを悪く言ってギルバート様のことを貶めようとされるお方だっていらっしゃるはず。……だったら、私は堂々とするだけだ。堂々と歩いて、完璧に振る舞う。それが、私が出来る精一杯のこと。

「あのご令嬢、すごく綺麗ですな。リスター辺境伯の婚約者でしょうか?」
「しかし、新しい婚約者が出来たという話は聞いておりませんな。……もしかすれば、現状は候補なのかも」
「でしたら、私の息子の妻に……ごほん、なんて冗談ですよ。ははは」

 周囲の会話は、とぎれとぎれにしか聞こえてこない。でも、私たちのことを噂しているのだけは分かる。……ダメよ。ここエ辛くなってしまったら、ギルバート様のお側に居られない。彼との未来が、なくなってしまう。

(私、恋のようなものををしてしまって弱くなったわ。ギルバート様にいいように見られたいって、役に立ちたいって思ってしまったもの……)

 今までならば、誰になんと言われようと構わないし、勝手に言っていろ状態だった。誰になんと噂されようとも、心は動かなかった。しかし、今は私のことはともかくギルバート様のことだけは悪く言われたくないって思ってしまって。私は、下唇をぎゅっと噛みしめた後、少しだけ俯いてしまった。……ダメよ。堂々とすると、決めたのに。
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