【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
第44話 暴走寸前
「な、なにをするのですか! 放してくださいっ!」

 イライジャ様の下で必死にもがく私だけれど、男女の力の差は歴然過ぎて。私の抵抗など、イライジャ様からすれば幼児が駄々をこねているレベルにしか感じられなかったのだろう。ただし、私の抵抗を煩わしいと思っていらっしゃるのか、露骨に舌打ちをされてきた。……それが、まるでトリガーとなったかのように、私の身体の奥から何かがまたふつふつと湧き上がってくる。……今度は、それをうまく抑え込めずに、頭の中が真っ白になっていく。……明らかに「暴走の前触れ」だった。

(ダメよ。ダメなの。暴走だけは……させちゃいけないのよ……!)

 必死に下唇をかみしめ、私が目を瞑って耐えていれば、イライジャ様は「……まだ、暴走させないのか」なんておっしゃった。このお方は、私が魔力を暴走させてリスター家を滅茶苦茶にすることを待っていらっしゃるのだろう。そういう目を、していらっしゃるから。そして、それでもダメだった時の場合も考えて、私のことを傷物にしようとされている。……こんな人、ずっとエリカに夢中だったらよかったのに……! 私のことなんて、気にも留めないままでよかったのに……!

(違う。このお方が夢中だったのは……エリカじゃなくて、『豊穣の巫女』なのよ。だから、私のことを好いているわけでもないし、寄りを本気で戻したいわけでもない)

 そう思い直して、私は体内から湧き上がる魔力をぐっとこらえようとする。この量は、間違いなく私が昔持っていた魔力とほぼ同じ量。多分、エリカに奪われていた魔力がすべて戻ってきてしまった。もちろん、土の魔力のこともあるから少しは少ないだろう。……けど、最悪のタイミングだった。

「シェリルが暴走するところを、俺はぜひとも見たい。そのために、わざわざエリカを説得したのだからな」
「私に、魔力を返すように、ですか?」
「あぁ、何があってもエリカのことは捨てないと言っておけば、あいつは何でもやってくれる」
「……最低、ですね」

 エリカも、悪い男に惚れたものだ。そんなことを思いながら私が深呼吸をして魔力の暴走を抑え込もうとしていれば、イライジャ様は私の口を手でふさがれた。その所為で、深呼吸のリズムが乱れて、私の暴走がまた激しくなろうとする。……ダメよ、ダメ。絶対に――ダメなのにっ!
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