【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
 リスター家の屋敷の中は、すごく綺麗だった。全体的に紫色が多いのは、やはりこの家の色が紫色だからだろうか。飾られている骨董品一つとっても、かなり高価なものだろうし。実家では、到底買えない値段だということは容易に想像が出来た。

「えっと……」
「あぁ、私はサイラスと申します。リスター家の執事でございます」
「では、サイラス、さん」

 メイド希望の分際で、呼び捨てにすることなど出来なかった。そのため、ゆっくりとかみしめるようにそう呼べば、サイラスさんは「……なんとでも、呼んでくださって構いません」と素っ気なく対応してくる。そりゃそうか。こんな不審者気味の女になど適当に対応するに決まっている。心の中でそう納得し、私はサイラスさんに応接間に案内してもらう。

 応接間の中は、やはりとても煌びやかだった。サイラスさんに勧められるがままソファーに腰を下ろせば、若い侍女さんが紅茶を出してくれる。その後、その侍女さんは「旦那様はお仕事中ですので、もうしばしお待ちくださいませ」と私ににっこりと笑いかけて言ってくれた。……この侍女さんは、フレンドリーな性格なのだろう。

「クレア。あまり慣れ合わないように。アシュフィールド侯爵家の人間など、何をするかわかりませんからね」

 しかし、サイラスさんは「クレア」と呼ばれた侍女さんを睨みつけてそう言う。……どれだけ、嫌われているのだろうか。そう思ったものの、これが当然なので何も言わない。ゆっくりと出された紅茶を口に運べば、その紅茶はとても上品な味わいがした。……実家では、到底飲めないランクのものだ。

「……まぁ、この女性の相手はクレアに任せますよ。私は、まだ仕事がありますので」
「はい!」

 サイラスさんはそれだけを言って、応接間を出て行く。残されたのは、私……とクレアさん。クレアさんは、その橙色のサイドテールを揺らしながら、私に「クレアです。よろしくお願いいたします!」と自己紹介をしてくれた。……本当に、フレンドリーな人だなぁ。それが、私がクレアさんに抱いた第一印象だった。
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