【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
(……私、ここに居たいのかしら?)

 石に躓いたのか、馬車が少しだけ跳ねる。その瞬間、ギルバート様はさりげなく私のことを抱き寄せてくださった。その優しさが、嬉しいような恥ずかしいような。……そう言えば、ギルバート様はお昼の際に何とおっしゃろうとされたのかしら? もしも重要なことならば、また教えてくださると思うのだけれど……。でも、それよりも。

(ギルバート様も、私と同じだったのね。……ううん、裏切られたレベルからすれば、ギルバート様の方が酷いのかもしれないわ。私は、ある程度そんな予感がしていたもの)

 ギルバート様の過去の方が、重大だった。

 私の場合、エリカがイライジャ様を狙っているのは知っていた。だけど、私はそれを知ってもイライジャ様のお心を繋ぎとめようとはしなかった。それは、イライジャ様を信頼していたからというわけではない。……ただ、全てを諦めていたのだ。どうせ、彼もエリカに心惹かれるだろうと。

 前妻の子だからと、継母や義妹に虐げられ、蔑ろにされる。父には「政略結婚の駒」としか見られない。イライジャ様は私のことを露骨に虐げては来られなかったけれど、あまりいい印象を抱いていたようには見えなかった。それは、今考えればすぐに分かることだ。

(ギルバート様の元婚約者のお方が、どんなお方なのかは知らないわ。……だけど、こんなにもお優しい人を捨てるのだから、見る目がないのね)

 そして、ふとそう思った。私は、ここに来て初めて優しくされた。確かに、実家では使用人たちにそれとなく優しくしてもらっていたけれど、それには同情の意味が含まれていたのを私は知っている。だから、本当の意味で優しくされたのは初めてだった……のだろうな。クレアも、マリンも。今ではサイラスさんを始めとした他の使用人の人たちも、私に良くしてくれる。……いつか、私にギルバート様のことを妻として支えてほしいとも、言われている。……その願いは、きっと叶えられないのだけれど。

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