君はまだ甘い!
そんなヒロキとまだ仲睦まじかった新婚時代、「一緒に家でできる遊びだから」と勧められて始めたTVゲーム。
本心は、自分ばかりゲームに長時間夢中になり、マヤの機嫌を損ね始めていることに気付いたからだが。

ヒロキは、戦闘で血が飛び散ったり、激しい銃声が耳障りなゲームを好んで遊んでいたが、マヤには、子どもや女性でも楽しめると、ゴルフのゲームを買い与えた。

最初は乗り気ではなかったが、昔のカセット型のゲーム機と違い、今どきのそれは映像そのものだけでも、まるで映画でも観ているかのような迫力と美しさで、そこにまず魅せられた。

ゴルフ自体は未経験でも、ゲームのルールは単純で、操作の難易度も高くはないし、すぐに夢中になった。
正月休みには二人で夜中まで没頭していた。


離婚後、寂しさを紛らわせるため、というよりストレス発散に、と、久しぶりにそのゲーム機を引っ張り出してきた。
別れる時にヒロキが「新しいのを買う」と、置いていったのだ。

小学生の娘も喰いついてきたので、週末に一緒に遊ぶようになった。
そのうち娘は他の流行りのゲームを欲しがったので、彼女にはそれで昼間に遊ばせ、自分は夜に、と、しばらく押し入れの段ボールに収まったままだったそのゲーム機は、再び出番を得て、母子二人のうら寂しいアパートのリビングを憩いの場に変えてくれた。

あまりに夢中になって、遂にはオンラインに繋いで、世界中の知らない人に交ざって対戦するまで熱くなっていた。

そのゲームの楽しみの一つに、オンライン上に設置されているロビーがある。
自分のアバターを作り、着せ替えて楽しんだり、そこで、そのアバターを使って知らない人と交流ができ、仲良くなった人と一緒にゴルフコース(ゲーム上の)を周ったりすることができた。

当時はまだ、会話はテキストチャットのみ。
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