Night is lovers.
ここは、公園の一角である。
 一人の男の子と女の子が、いた。空は、青々として雲一つないすっきりした快晴だ。
 一人の大人しい男の子は、グローブを持っている。少し離れたところに少し元気な女の子がグローブを持っている。そして、ボールを持っている。
「優也、投げるよ」
「おう」
 と優也と呼ばれた男の子は、構えた。一、二、三ときれいな投げ方を女の子はした。
 バシッとミットの音がした。
「アヤカ、もっと手加減してくれないか?」
「優也、男なんだからそんな事言わない」
 と物足りなさそうに言った。
 多摩川の鉄橋に、赤と白のラインが塗られた京浜急行電車が、東京から南の横浜方面に走っている。
 ガガンガガン、と。
 アヤカは、お父さんが、バスケットボールの線しぃをしていた。父親の運動神経の良さが遺伝して身体はパッと動く。ただ、アヤカの母親は、父親の浮気が現金で離婚した。
 優也、も運動神経は良く、家族で読売巨人軍の試合があると、休日になれば観戦しに行く。
 今日は、小学校が土曜日で昼までだった。
 アヤカが、「今日は、優也、キャッチボールをしよう」と言っていた。
「ねえ、優也」
「何、アヤカ?」
「今度、京急で三崎口まで遠足だよね」
「うん」
 三崎口、とは神奈川県三浦市にある。
「三崎口って、こっちよりも空気も水も綺麗って」
「らしいね」
「三崎口まで行った時、お父さんとマグロ丼を食べて帰ってきたけどおいしかったよ」
「へぇー」
 とキャッチボールをしながらしゃべった。
 アヤカは、いつも優也相手に仮面ライダーごっこをしたり、キャッチボールをしたり、プロレスごっこをしていた。いわゆる、アヤカは、お転婆な女の子だった。お父さんと仲が良かった。しかし、母親は、そんな亭主が嫌で離婚してから会わせなかった。
 ただ、アヤカは、そんなに勉強ができなかった。
 一方で、優也は、国語とか算数はよくできた方で、学校の先生は、授業で「優也君は、よく勉強ができました」と言った。
 二人は、バシバシとボールの音を立てながら、夕方までキャッチボールをして帰った。
 その次の週は、三崎口まで遠足の日だった。
 その水曜日。
 区立小学校から先生は、児童を引率して京急蒲田駅まで行った。その日は、晴れていたが、少しだけ鱗空があった。
 優也は、アヤカの横を歩いていた。
 目の前にトラックが急ブレーキを踏んだ。
 優也は、少しだけドキッとしながらそうでもない。信号が、赤なので停止した。「ひまわり運送」と書かれたトラックの運転手さんが、少し手で汗をぬぐった。
 小学校の先生は、優也たち児童を、京急蒲田駅まで連れてきた。京急電車の駅員さんが、先生と引き続きをしている。
 団体専用の改札口を、優也たちは、通った。周りには、まだ通勤・通学客がいた。
 みんなでバタバタと音を立てて蒲田駅のプラットフォームへ向かった。
 向かい側のフォームー品川方面に特急青砥行きが入ってきた。そして、一方で、『蒲田行進曲』に合わせて快特三崎口行きが、フォームにファーンとサイレンを鳴らして入ってきた。
 その時、誰かとぶつかったアヤカが、倒れた。バンッと音を立てて、みんなが、キャーと言った。
 アヤカは、膝から転んで泣いていた。
ー痛い痛い痛い
 その時、20代の女性会社員が、「大丈夫ですか?」と言ったが、もう一人、京急蒲田駅の駅員さんが、キビキビ動いた。顔で言えばEXILEの岩田剛典みたいだ。
「大丈夫ですか?お嬢さん?」
「駅員さん、痛いよー!!」
とアヤカは、何故か駅員さんの胸元で泣いた。
「駅員さん、すみません、うちの児童が」と先生は、言った。
 その時、会社員風の女性が、「お怪我は、ありませんでしたか?」と言っていた。
 アヤカは、京急蒲田駅の駅員さんが、ヒーローみたいに思った。
 一方、優也は、何にもできずただ、寂しそうにアヤカと駅員さんの一部始終を観ていた。
 アヤカは、駅員さんをヒーローみたいに思って、三崎口までの車内で、ずっと京急快特の運転士さんをみていた。
 勿論、恋する乙女になった。ところが、優也は、そんな遠足が楽しくなかった。
< 1 / 8 >

この作品をシェア

pagetop