きみのためならヴァンパイア
きみのためなら




ーーどこまでも暗い海の底に落ちていくような、夢。

怖いはずなのにあたたかさを感じるような、闇。

光をたどる気力も失って、ただ波に揺られる心地よさに身を委ねていた。

ここが天国でもかまわない。

……だいじなものは、なくなっちゃったから。

だからどうか、このままでーー……そんな淡い願いは、目を刺すような眩しさによって叶わなかったと知らされる。


雀の鳴き声すら、忌々(いまいま)しい。

世界のすべてを呪ってしまいたいような、最悪の目覚めだった。


ーーあの後、何があったのか、はっきりと思い出せない。


ただ、私は紫月を撃って、家族に連れられて、今こうして自室の布団に潜っていることだけは確かだ。

……それから、紫月の記憶が消えてしまったであろうことも、確かだ。


ふいに部屋のドアがノックされた。

悲しみに沈む間も与えられず、私はハンターとしての訓練を受けさせられる。

……もう、何も考えたくない。


私はただ無心で、家族みんなの言うことだけを聞いた。

そうしているのが、今は一番楽だった。


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