仕事人侍女の後宮セカンドライフ~新しい主人を選ぶはずが、寵姫に選ばれました~

3 その娘、女豹のごとく

 祝祭のようにバルコニーから花びらが振りまかれる中、ハレムは開門した。
 我先にと門の中に流れ込む人々には、輿に乗せられて入城する姫もいれば、一攫千金を狙う舞姫もいた。もちろん彼女たちを支援する実家の使用人やお抱えの行商人たちも続いて入城していく。
 ハレムの中庭はにわかに宴のように華やいだ。寵姫候補たちは、自身が財宝のように顎を上げていた。
「集まって来たな……」
 その中で、一種異質な空気をまとって彼女らを検分している少女がいた。
 軍人のように目つきが鋭く、ぴんと張った弓のような緊張をまとった少女は、確かに美姫には違いなかった。きつめの目鼻立ちにしなやかな体躯をしていて、女豹のように油断ならない色香を漂わせていた。
「ソフィア、ついに寵姫になるんだ?」
 彼女に声を掛けたのは、ある種無防備な少年だった。ソフィアはまだじろりと周りを見渡したまま、少年に声を投げる。
「畏れ多いことを言うな、マルス。皇后様に代わる寵姫など、ジャハル帝国広しと言えどみつからないだろう」
「そう? 僕らはこの祭りが盛り上がってくれればそれでいいけどね」
 マルスはおおらかさに笑うと、ひょいとソフィアの肩に手を乗せようとする。
「……それとも、新しい旅に出るなら手伝うよ?」
 ソフィアはそれを無造作に払いのけると、生真面目な調子で告げた。
「私にとっては新たな旅だ。ここで新しい主の元、新しい生活を始める」
 マルスはふふっと笑い返すと、肩をすくめてみせた。
「つれないんだから。ま、そういうとこ、ソフィアらしいけどね」
 マルスはソフィアから一歩離れると、中庭の噴水を示して言う。
「見てごらん。ソフィアが興味を引かれそうな出し物が始まるよ」
「……あ」
 マルスの指さす方を見て、ソフィアはふと頬を緩めた。
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