呪われ王子の甘い愛情
第三話
○ココロの自室(朝)

母親「ココロ! ボーイフレンドが来てるわよ! 起きなさい!」

ココロ「へ?」

枕に抱きついてよだれが垂れそうになっていたのを、母親に叩き起こされるココロ。

ココロ「ぼーいふれんど……?」

起き上がって、寝癖のついた頭を傾げるココロ。
母親はきらきした目で興奮気味。

母親「正直、学費ピンチだったけど頑張ってよかった。パパには内緒だけど、玉の輿チャンスあると思ったのよね〜」

ココロの両肩をガシッとつかみ、真剣な顔をする母親。

母親「絶対に、逃すんじゃないわよ」

ココロ「はひ……」

母親の迫力に負けて頷くココロ。

○ココロの自宅前(朝)

一軒家のココロの自宅。
門扉の前に普通より長さのある黒塗りの車が止められている。
柊が車の前に立っている。

ココロ(やっぱり……)

ココロ「おはようございます」

門扉を開けて出てくるココロは、軽く髪を巻いて色付きリップをしていたりと、いつもより女子力が高い。
怯えたような顔のココロを、無言で見つめる柊。

ココロ(お母さん、張り切って手を出してくるから……やっぱり変じゃないかな)

沈黙に居心地が悪くなり、俯くココロ。

柊「人を待たせておいて、やっていたことがそれか」

頭の先から靴の先まで見た柊の冷たい言葉に、羞恥で赤くなるココロ。

柊「手を加えなくても、オマエは十分だ。それよりも、オレのそばにいることを優先させろ」

そう言って背を向ける柊の言葉に、顔を上げて頬を染めるココロ。

ココロ(それって…… 普段のままでも十分可愛いってこと?)

照れるココロ。

柊「乗れ」

柊が車の扉を開けてうながすが、ココロは逡巡する。
すると、車の中から公景がにこやかに顔を出す。

公景「俺もいるから、安心して乗ってね〜」

ココロ「袖笠先輩!」

ホッとしたように、ココロの表情が明るくなる。

ココロ「昨日はありがとうございました!」

公景「どーいたしまして。俺のことは公景でいいよ」

ココロにおいでおいでと手招きをする公景。
ココロに笑顔を向けられる公景が面白くないようで、ドアの陰で舌打ちをする柊。

(回想)

○生徒会室(放課後)

ソファーにうつ伏せに押し倒され、柊に耳を甘噛みされ真っ赤になっているココロ。
逃げようと体を起こすが、ウエストを柊につかまれ、首筋にキスをされる。

ココロ「っ……」

真っ赤になって震えるココロ。
突然、生徒会室の扉が開いて公景が現れる。

柊「取り込み中だ、出てけ」

公景に一言告げるのみで意に介さず、ココロの首筋にキスマークをつける柊。
縋るように公景を見るココロ。

公景「……」

二人の様子を意に介さず、普通に入ってきて、二人がいるソファーの向かいのソファーに座る公景。
手付かずだったココロのティーカップを手に取ると一口飲み、にっこりと笑う。

公景「俺のことは気にしないで、続けて続けて」

公景の様子に深いため息をつく柊。

柊「興がそがれた」

前髪をかきあげ、ココロから離れる柊。
起き上がって顕になった首筋を慌てて髪で隠すココロ。

公景「ごめんね〜」

ココロと目が合う公景。

公景「女の扱い知らないヤツで。幼なじみの俺が責任持って叱っとくから、今日はお帰り」

公景が笑顔を崩さないまま入り口の方を指差し、俯きがちに駆け出ていくココロ。

○車内(朝)

冷や汗をかくココロのアップ。

ココロ(アブナイ人だってわかってるのに、なんで私はまた……)

体を縮こませているココロ。
左隣には背もたれにもたれてココロの肩に腕を回している尊大そうな柊。
リムジン風の車内はL字型の座席で、角を挟んだ右隣には公景がグラスを手に座っている。

公景「いろいろあるけど、なんか飲む〜?」

車内に備え付けられた冷蔵庫を開けて見せる公景。

ココロ(なんで車の中に冷蔵庫が!?)

目をぐるぐるさせながら混乱するココロ。
ココロは首をぶんぶん振って、また俯いてしまう。

ココロ(住む世界が違い過ぎる……!)

俯いたココロの首筋に昨日のキスマークが残っているのを見つけて、満足そうに微笑む柊。

柊「公景、飲むな」

何かに気がつき、公景に声をかける柊。
ココロが見ると、公景のグラスの中にどこからともなく血が落ちてきていた。

公景「また?」

うんざりしたように顔をしかめる公景。

公景「俺は見えないから、別に気にしないんだけどなぁ」

ドリンクホルダーにグラスを置く公景。
置いた後も水の中に血が広がっていく。

ココロ「あれは――なんなんですか?」

二人のやり取りをじっと見ていたココロ。

公景「血、だろ?」

ココロ「それは分かってます!」

公景に訴えかけるが、すぐに俯いてしまう。

ココロ「でも、他の人には見えないし――」

次に、柊に顔を向けて訴えるココロ。

ココロ「望葉先輩には見えてるんですよね? 望葉先輩が、私に呪いをかけたんですか? なんで? 私がなにをしましたか!?」

柊の服しがみつき、涙を滲ませ柊を見上げるココロ。

柊「望葉ではなく、柊と呼べ」

ココロの目尻をぬぐいながら、愛おしそうに目を細める。

柊「これは、望葉の当主筋に掛けられた呪いだ。オマエは、望葉の呪いに巻き込まれただけだ」

ココロの頬を撫でる柊。
丸い目で柊を見上げるココロ。

柊「オレに、愛されたからな」

ストレートな言葉に頬を染めるココロ。

柊「オマエはオレの花嫁だ。ココロ」

キスするように顎に手をかけたが、ココロの額と額を合わせただけの柊。

柊「オレを愛さなくて良い。ただ、オレに愛されてろ」

至近距離で見つめ合うココロと柊。
二人の世界といった風のココロと柊の向こうで、公景がひゅーひゅーと囃し立てている。
柊に睨まれ黙る公景。
ココロを離し、最初と同じようにココロの肩に手を回して背もたれに背をつける柊。

ココロ(呪い? 愛!?)

動悸を感じながら真っ赤になって固まっているココロ。

ココロ(これって、これって……どういうことー!?)

三人を乗せて車は走っていく。

○校門(朝)
校門に三人の乗った車が止まる。
柊が降りてきて、登校中だった生徒たちが王子の登場に色めき立つ。
柊が車を振り返り、手を差し出す。
その手を取って、ココロが降りてきて柊の隣に立つ。
遅れて公景も降りてくるが、生徒たちは柊とココロに釘付けだ。
生徒たちに動揺が広がる。

生徒たち「誰!? アレ」
「王子、恋人いたの!?」
「あ、昨日の一年……」
「マジ?」
「可愛いじゃん」

可愛いとつぶやいた誰かの言葉に、柊が眉間にシワを寄せる。
ココロの手首を強く握りしめると、抱き寄せて腰に手を回し体を密着させる。
ココロの顎に手をやると、そのままキスをする。
女子生徒たちから悲鳴が、男子生徒たちから歓声が上がる。

ココロ「んんっ」

見せつけるような長いキスに、息が苦しくなって柊の胸を叩くココロ。
ようやく唇を離した柊はココロの唇を親指で撫でる。

柊「こういうことだ。全員覚えておけ」

周囲の生徒たちを睨みつけ威嚇する柊。
真っ赤になって硬直しているココロ。
ココロの手首を握りしめたままの柊の手の下から、幻の血が滴り落ちていた。
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