呪われ王子の甘い愛情
第五話
○校内廊下

ココロの腕を引いて歩く柊。
反対の手には書類の挟まったバインダーを持っている。
足の速い柊についていくのに必死なココロ。

公景がその後をついてきている。
生徒会一行に道を開ける生徒たち。
ひそひそと噂話をしている声が聞こえて来る。

生徒たち「あの噂本当だったんだ」
「生徒会長が女連れ回してるって」
「暴君」
「いいのかあれ」

良くない噂に眉を顰めるココロ。
柊は涼しい顔をしている。

○男子バレーボール部部室
 
柊「生徒会だ」

扉を開けて、部室になだれ込んでくる生徒会一行。
先陣を切る柊に、引きずられて困惑顔のままのココロ。
動揺するバレーボール部員たち。

柊「追加予算の申請について調査しに来た。部長は……」

ココロの手を離してバインダーを捲りながら、話を進めようとするが青ざめた顔のココロに気が付き手が止まる。
部室の一角を見つめて硬直しているココロ。
視線の先にはロッカーが並んでいる。
一番奥のロッカーの隙間から血が流れだしていた。
ロッカーの前に血だまりが出来ている。
柊もそれに気が付き、バインダーを閉じてツカツカとロッカーに歩み寄る。

部員「あっ」

部員の一人が青ざめて声を上げる。
血に濡れたロッカーを開ける柊。

柊「オマエの、ロッカーだな」

ロッカーの中からタバコの箱を取り出した柊は、そのタバコで先ほど声を上げた部員を指し示す。

柊「追加予算よりも、こちらの話の方をした方がよさそうだな」

連帯責任を感じて青ざめる部員たち。

部員「自分は女連れ込んで、ヤりたい放題してるくせに、偉そうに」

部員は柊を睨みつけるが、柊は意に介さず涼しい顔をしている。

オロオロと二人を見比べるココロと、ニコニコ笑顔でそれを見ている公景。

柊「オレの女と、オマエの喫煙になんの因果が?」

ココロを抱き寄せ見せつける柊。
カッとなる部員が拳を握る。

○生徒会室

ココロ「秘書とか止めましょう! 百害あって一利なしです!」

柊の机に紅茶を叩きつけるように置き、抗議するココロ。
椅子に座った柊は頬にシップを貼りながら、なんのことかと言った風に丸い目を向けている。

柊「なにか、問題があると思うか?」

勢ぞろいしている生徒会メンバーたちに視線を向け、問いかける柊。

公景「俺はいいと思いまーす」

一番離れた定位置の机から両手を上げる公景。
他の生徒会メンバーはお互い顔を見合わせるが黙っている。

柊「問題ないそうだ」

涼しい顔でココロと向き合う柊。
もちろん納得がいかない不満顔のココロ。

柊「そういう顔もそそられるな」

ココロのアゴのラインを撫でる柊。
真っ赤になるココロ。

生徒会メンバー女子A「そろそろ風紀員との打ち合わせなので失礼します」
生徒会メンバー男子「同行します」
生徒会メンバー女子B「私は構内の見回りに……」
公景「じゃあ、俺はそのボディーガードで」

関わり合いになりたくないといった風に、次々席を立ち出ていく。

公景「同意だけは確認しろよ~」

最後に出ていった公景が、去り際に振り返り手を振って立ち去る。

二人っきりになるココロと柊。
柊は頬のシップを剥がすと足元のゴミ箱に捨てる。
シップの下は殴られた跡で少し赤い。

ココロの腕を引くと自分の膝に座らせる柊。

柊「オレにふれられるのは嫌か?」

至近距離で柊の顔を見てしまわないように顔を逸らしながら頬を染めるココロ。

ココロ「…………」

ココロは柊の問いかけに頬を染めるばかりで答えられないでいる。
柊の手がココロの腰に回り、抱きしめられる。
思わずその手に、自分の手を重ねるココロ。

柊「同意ない行為が許されるはずがないとわかっている」

ココロの首筋に顔をうずめながら、言葉を続ける柊。

柊「それでも、オレはオマエに触れたい」

首筋に口づけをしながら、ココロの指に自分の指を絡めて手をつなぐ柊。

柊「許されないからこそ、オレはオマエを抱きたい」

ココロ「っ……!」

首筋を甘く嚙まれ、もれそうになる声を堪えるココロ。

柊「オレを憎め。オレを愛するな。それでもオマエは、オレの花嫁だ」

ココロ「どぉ、して……?」

瞳をうるませながら柊を振り返り、問いかけるココロ。

柊「オレを愛したら――――オマエはオレを殺すからだ」

悲し気に微笑む柊と、驚きに目を見開くココロの目が合う。
繋いだ手の間から、血がしたたり落ちていた。

柊「それが、呪いだ」
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