つれない男女のウラの顔

止まっていたはずの涙がまた溢れ出し、私の頬を濡らした。重ねられている手から伝わる体温が、愛しく思えた。


「花梨の人柄を見ていたら、素敵なご両親に育てられたのがよく分かる。少しの時間でいい、顔を見せてあげて」

「成瀬さん…」

「いま花梨がそうやって悲しんでいるように、ご両親も今頃不安で押しつぶされそうかもしれない。それくらい追い詰められていないと、電話なんてしてこなかっただろうから」


ひとつひとつの言葉があたたかい。成瀬さんは私以上に、私の両親の気持ちを汲んでくれている。誰よりも冷静だからこその判断は、今の私にとってとても頼りになった。


「花梨が実家にいる間、俺は適当に時間を潰しておくよ」

「でもその時間には、殆どのお店が閉まっているかも…」

「24時間営業のチェーン店だってあるし、それにさっき“車でのんびり出来るところに行く”のが趣味だって言っただろ?適当にドライブでも楽しんでおくよ」


優しく微笑まれ、きゅっと胸が締め付けられた。「行くなら少しでも早く出た方がいい。すぐ準備出来るか?」と問われ、静かに頷いた。


「成瀬さん、ありがとうございます」


私がそう言うと、成瀬さんは何も言わず私の頭をぽんっと軽く撫でてくれた。その手はすぐに離れ、重ねられていた手の熱もなくなった。それなのに、余韻が残っているのか私の身体の熱はなかなか引いてくれなかった。


急いで立ち上がり、一旦自分の部屋に戻ると、バッグに財布と鍵とスマホだけを入れてすぐに部屋を出た。

廊下で待ってくれていた成瀬さんと駐車場へ向かう。彼の一歩後ろを歩きながら、その大きな背中を見つめた。


不謹慎かもしれないけれど、成瀬さんと一緒にいられることが嬉しかった。

彼が優しい視線を向ける先にいるのも、こうして肩を並べて歩くのも、全部私だけならいいのにと思ってしまったのは、ここだけの話。
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