つれない男女のウラの顔

しかしその手は、あと少しのところで空を切った。

花梨がいなくなったアパートの廊下で、暫く動けないでいた。

彼女は時に、俺の想像を超えた行動を起こす。

今のはなんだ。花梨は一体何を考えている?

今まで異性と関わってこなかったことを、今になって後悔している。彼女の気持ちを汲み取れないのがもどがしい。


「あの涙は何だったんだ…?」


さっき一瞬見せた涙の意味が分からない。

あの時強く抱き締めていたら、もう少し一緒にいられたのだろうか。












昨夜、花梨をベッドに運び、隣に寝転んだのは覚えている。が、いつの間にか記憶は途切れていて、気付いた時には朝になっていた。

人の体温を感じながら眠ったのはいつぶりだろう。
大学時代、友人の家で雑魚寝したときのことをふと思い出した。もちろん一緒に寝たのは男ばかり。いびきはうるさいし、床はかたいし、寝心地は最悪だったのを覚えている。

その記憶が残っているせいか、こんなにも心地よく誰かと眠ったのは初めてな気がした。


まだ重い瞼を何とか押し上げ、隣で眠る花梨の寝顔を見て思わず顔が綻んだ。花梨が目を覚ました時に引かれないよう、ソファに移動しようかとも考えたが、なぜか体を動かす気にはなれず。
そのまま再びうとうとし始めると、自然と瞼が下がり視界が真っ暗になった。


──その時だった。夢と現実の狭間で、何となく頭に違和感を覚えた。

ふわふわと、何かが髪に触れている気がする。
もしかして花梨が俺の髪を触ってる?そんなことをぼんやりと考えていた矢先、クスクスと小さな笑い声が聞こえてきた。

どうやら目を覚ました花梨が、俺の髪で遊んでいるらしい。完全に目を覚ますタイミングを失った俺は、その遊びが終わるのを静かに待った。


それにしても、可愛すぎるだろ。
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