つれない男女のウラの顔
物心ついた時から母親はいなかった。父親が言うには、母親はもともと体が弱く、俺を産んだあとすぐに病気で亡くなったらしい。
そのため幼い頃から父親と、ふたりの兄との4人で生活をしていた。女が苦手になったのは、男に囲まれて育ったからなのかもしれない。
女に免疫がないせいか、意識していないにも関わらず、あまりにも距離を詰められると赤面してしまう。不意打ちなんか特に。
それが嫌で、俺は極端に女を避けた。けれどいくら関わらないようにしていても、女の方から絡んでくることも少なくなかった。
近づいてくるやつらはだいたい色目を使ってきた。社会人になった今でもだ。俺のことを何も知らないくせに“顔が良い”というだけで騒ぎ立て、勝手に惚れてくる。
しかもそういう女に限って「スマートで女の扱いを分かってそう」と勝手に決めつけ、思っていたのと違えば「裏切られた」「期待外れ」と失望する。
そっちが一方的に期待しただけなのに、本当に迷惑な話だ。
そういうこともあり、どうしても“女”という生き物が受け入れられなかった俺は、中学からは男子校に通った。
女に慣れることから逃げていた結果、未だに苦手は克服出来ず、赤面してしまう。本当に面倒なコンプレックスを持ってしまったと思う。
無愛想、塩対応、能面男、研究にしか興味のない変態、もう何とでも言えばいい。
学生時代にできた、数人の友人さえいれば他に何もいらないし、恋愛とかそういうのも一切興味がない。
今の生活で充分満足している。だからこの先もずっと、このままひとりで生きていく。気の合う友人と、たまに飲みに行けたらそれでいい。
と、この時は本気でそう思っていた。