つれない男女のウラの顔

「………………え?!」


会社の休憩スペースで大きな声を上げた二輪に「うるさいな」と冷ややかな視線を送る。

だがその男は俺の注意を無視して「まじで?!遂にか?!」とデカい声で喋りながら詰め寄ってくる。


「まじかーー!もしかして俺のお陰?!俺ってキューピッド?!」

「なんでお前のお陰になるんだよ」

「え、違うの?俺めちゃくちゃ協力したよな?」


めちゃくちゃってなんだ。確かに石田の件は助けられたが、京香と結ばれたのは二輪のお陰ではない。だからといって、俺が何かしたわけでもないが。

一番頑張ってくれたのは、他の誰でもなく京香だ。いざと言う時に引っ張ってくれたのは彼女の方。

京香とこういう関係になれたのも、身体を重ねられたのも、全て彼女のお陰だ。だから俺は、一生をかけて京香を守りたいし、幸せにしたいと思う。


「そっかそっか、遂に成瀬もこちら側の人間になったか。どうだ、彼女という存在は素晴らしいだろう?可愛くて仕方がないだろう?一生見ていられるよな。もはや同じ空気吸えてるだけで運命だよな」


矢継ぎ早に言葉を紡ぐ二輪をスルーして、思い浮かべるのは1週間前のこと。初めて京香と繋がったあの日、今まで味わったことのないほどの幸福感に満たされた。

やはり痛みがあるのか、時折顔を歪める京香を見て胸が痛んだが、それでもやめないで欲しいと訴える彼女が愛しくてたまらなかった。


上手く出来るだろうかとか、満足させてあげられるだろうかという緊張感、自分を抑えられるだろうかという不安が襲う中、涙を流す京香を見て一瞬怯んだ。

けれど俺が冷静さを失うと京香を不安にさせてしまうため、動揺を悟られないよう慎重に進めた。彼女の中は思いの外キツくて、時折零れる甘い声と、その締め付けに何度も我を失いそうになった。
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