つれない男女のウラの顔

「彼女はこのあと友人のところへ行くから、わざわざ持ってこなくていい。その代わりその鍵は明日、必ず職場(・・)で彼女に返すように」


私達の会話を理解していたらしい成瀬さんは、一方的に喋ったかと思うと、石田さんの返事を聞く前に通話を切った。私はその一連の流れを、ただポカンと眺めることしか出来なかった。


「…と、いうことだから、悪いが鍵は明日まで戻ってこない」

「……」


さらりと放った成瀬さんに、こくりと頷く。

助かった、と言えば助かったけど…ちょっと困った。

鍵は明日にならないと戻ってこない。でも私が頼れる“友人”はマイコしかいない。

だけどマイコは実家暮らしだからお世話になれないし、だからといって自分の実家もそこそこ遠いし、そもそもこんな格好じゃどこにも行けないし。


「勝手なことをして悪かった。相手が石田っていうのが、何となく引っかかって」


そ、そうなんだ。石田さんは“女性に優しい”と聞くけれど、男性にはあまり人気がないのかな。彼もまた、あの甘いフェイスの裏に何か隠しているのかも。


「…いえ、ありがとうございます…」


とりあえずお礼の言葉を口にすると、成瀬さんは何も言わずにスマホを返してくれた。

一応鍵は見付かった(?)からいいけど…………あれ、やっぱり困ったぞ。

私、これからどこに行けばいい?


「そ、それでは、私はこれから友人のところ(・・・・・・)へ行きますので、失礼しますね。あ、でもタオルはこのままお借りしてもいいですか?必ず洗濯してからお返ししますので…」


なんとか平静を装いながら喋ってみるけど、実際はかなり混乱していた。一旦ひとりになって落ち着きたかった。

踵を返し、ドアノブに手を伸ばす。けれどすかさず「待って」と制され、その手は空を切った。


「恐らく雨はまだ止んでいないし、雷も鳴ってる」

「……」

「もし行く場所があるなら、俺が車で送るよ。でもこんな急に頼れる友人はいるのか?」


いないですよ。でもこの状況をどうしろと…?


「こうなったのは俺の責任でもあるし」
「いえ、元はと言えば私が鍵を落としたからで…」
「もし行く場所がないのなら、今日は俺の部屋を使えばいい」




……………え???
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