ラピスラズリ ~前世の記憶を思い出した伯爵令嬢は政略結婚を拒否します~
「計算をする時の癖なのです」
「そうそう、カノン様は先日怪我から復帰なさってから計算が格段に早くなられました。代償かどうかは分かりませんが、指をチマチマ動かすようになってしまって、怪しい見た目が残念なんですよね」

「ほほう」


ルーカス様は私を見下ろして、無言のまま私を見つめた。これは疑いの眼差しか?
あ。もしかして。

「私がベルナルド様にお会いしたいがために、用もないのに父の執務室に来ているという噂を耳にしておりますが、誤解は解けましたか?」
「おや。カノン様はあの噂をご存知だったのですか?」
「ええ。皆さま面白可笑しく話されますし」
「あの。カノン様はきちんとこちらでお仕事をなさっておりますよ」
ナイス先輩!

「計算だけでなく、報告書のまとめもとても分かりやすくなさいます。
確認が必要な個所は放っておくことなくきちんとお調べになるので信頼して任せられます。
国の地形や隣国に関することも精通していらっしゃいますし、外国語もよく勉強なさっておいでで翻訳作業もしてくださいます。
私供、とても助かっております」

「そうか」
「ついでに『計算高い』のではなく、『計算が速い』の間違いですとベルナルド様にお伝えくださいませ」

「ははははは!『計算が速い』とは伝えておくが、『計算高い』が間違いかどうかは今後のカノン様の動向次第だろうな』
「なッ」

「我が主はそう簡単には騙されないですよ。
まあせいぜい頑張ってください」
「何を頑張れと?
お会いする機会もほとんどないのですから頑張りようがありませんわ」

「ふんっ。マルクス王子殿下を使ってベルナルド様をここに呼び出そうとしたくせによく言いますね」
「!?」

「王城でベルナルド様からカノン様に会いにいらしたら、すぐにその噂が広まってしまうではないですか。
本命の噂を立てようとしても無駄ですよ。
ベルナルド様は来ませんよ」

「ああ、嫌だ。
どうしたらそうひねくれたお考えができるのでしょう!
本当に困っているからご相談したのに。
ベルナルド様に来られても、、マルクス王子殿下に来られても。どちらにしても困るのです。仕事の邪魔です。今のルーカス様も邪魔でしかありませんから、よく覚えておいてくださいませ」
「そっくりそのまま返そう。毎日毎日ベルナルド様の執務室に懲りることなく訪れるカノン様も同様に邪魔になっているとやっとお気づきになられたようですね」

た、確かに・・・。
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