65リットルよりも、笑って。




震える全身を平気なふりで抑え込んで、下手くそすぎる笑顔を見せる。



「エリート、泣かせちゃうよ…、あんな不器用ナンバー1で優しい医者を……近いうち、泣かせちゃう」



あの日、らしくなかった夜。
本人にも許可は取っているのにね。

でもぜったい、覚悟なんかできてないはずなんだよ。


彼は医者だから、担当医だから、そして好きな女の前では格好つけたい男だから。


あんなふうに言ってくれたんだろうけれど。



「そのときくらい…泣かせてあげてもいいと思うの」



美子ちゃんの言葉は、穏やかだった。

私の涙を拭っているようで、実際は。
見守る側の苦しさを訴えてくるものでもあった。



「いちばん、誰よりも頑張っているのは患者さん。次に我慢しているのは…その家族たち。でもその次、自分たちの無力感に悔しい思いをしているのは……私たち医者でもあるってことは知っておいて欲しいな」



じゃあ私の場合、2番目がお医者さんだね。

家族は居ないから。



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