65リットルよりも、笑って。
「じゃあ……菜の花。最期はいっぱい飾ってくれる?」
一般的に見てもこれは、ぜったい、医者が患者にはしないだろう処置だ。
患者を抱きしめるなんて、どうかしている。
私が今日も変なことを笑顔で言ったから、この無愛想なエリートくんは困ってしまったのだ。
「……ごめんねえ、先生」
「言うな」
「初めて担当した患者が先生にかなりのトラウマ植え付けちゃうかも」
「言うなっつったろ」
「…“つったろ”って、大事な大事な患者になんてこと」
「………悪い」
ぎゅっと加わったチカラは、この消えそうな命にすがりつくようなもの。
「あははっ。そこで謝るの、らしくないよ泰斗(たいと)くん。……ごめん、…ごめんね」
「……そっくりそのまま返してやる」
抗がん剤の副作用で髪が抜けてしまった頭には医療用ウィッグと組み合わせた赤いニット帽。
与えられた余命は1年、実質半年。
気合いだけで笑っているような。
そんな患者でもある18歳の女に手を伸ばす25歳の研修医だなんて。
やだやだ、しあわせすぎて………苦しいったらない。