弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長に甘やかされる
「家を、借りたい……ですか?」

 翌日、町長を訪問してミリアは四か月ヤーナックに滞在をする旨を告げ、とはいえ、四か月宿屋に宿泊するのは路銀の無駄だと考えていると話した。もし、ヤーナックのどこかに空いている家があれば、そこを借りたいのだと告げると、町長は提案をした。

「警備隊ですか?」

「ええ、これは前からどうにかしなければと考えていたことで……本当はヴィルマー様にお力を借りたかったのですが、ここヤーナックに常駐をする者を手配出来ないのでもう少し待ってくれと言われておりました。しかし、あなた方は4か月もここに滞在するということなので、その間にこの町の警備隊を発足していただけないかと思いまして」

「しかし、警備隊と言っても……」

「既に、そういう物を作ろうと言う話だけはあがっていて、名乗りをあげてくれている者もおります。しかし、実際そこには武器を持って戦ったことがない者がほとんどでして……その者たちを、少しでも使い物になるようにしていただくことは出来ませんか」

 ミリアは少し悩んだ。彼女は騎士団長になる以前から後輩の指導をしていたため、その経験を活かせるとは思う。だが、自分の足に負担をかけずに出来るだろうか……と、そこが気になった。

「もし、それを飲んでいただければ、家賃はいただきません。4か月、家を一つただでお貸ししましょう。正直なところ、最近野盗のみならず、魔獣の出現も多く、いささかこの町を守るのに懸念が多すぎてですね……」

 本当に困っているようで、町長はため息をつく。彼が出した条件は、正直なところ良い。4か月の家賃がただになるのはとにかくありがたい。それに、確かに4か月という限定で、他の仕事に就くことも難しいとミリアは考えた。彼女は伯爵令嬢ではあったが、長い間騎士団に所属をして職務を果たしてきたため、労働に対する意欲はそれなりにある。それゆえ、悩みはしたものの、最後には町長の提案を受け入れる。

「わかりました。どこまで出来るかはわかりませんが、お力になりましょう」

「おお、ありがたい!」

 こうして、ミリアとヘルマは町の一角にある小さな空き家を借りることが出来た。ありがたいことに、ベッドや調度品などは置きっぱなしになっており、厨房も使える状態だった。ベッドに布団類はなかったので、それだけは購入しなければいけなかったが、家賃が無料であることを考えれば、その程度の出費はどうということもない。

 ミリアはスヴェンがまたこの町に来た時に教えて欲しいと、宿屋のおかみにいくらか金を握らせて二週間滞在した宿屋から空き家に移動をした。ヘルマは「お嬢様! 調理器具もいくらか残っているようですよ! それに、共用の井戸も近くにあるし、良い物件です!」と大喜びだった。彼女たちはどちらも調理をそれなりに出来るので、それは朗報だった。

「大きな鉄板があります。わあ、大きなふるいもある。これ、パンを焼けるんじゃないですかね」

「ああ、それは良いですね。ヘルマはパン焼きは得意でしょうか」

「あまり自信がありません。お嬢様は?」

「以前、遠征に行った先で土砂崩れがあり、団員数名だけが小さな集落に一週間世話になったことがあります。そこで、教わって何度か焼きました」

「そうなんですね。よろしければ、教えてもらっても良いですか?」

 それへ、ミリアは「勿論です」と言い、まずは買い物をしなければいけないもののリストを書きだした。
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