いつまでも、側に。

Ⅲ. 出会い


部活終わり、ガヤガヤと騒がしい昇降口を通り抜け、そのまま図書室へと向かう。

……独りになりたかった。


「よし、誰もいない。」


そうつぶやいた時、


「見ない顔だね。」


と誰かに声をかけられた。


「うわっ!?」


びっくりして振り向くと、そこにはロングヘアの女子生徒が立っていた。

……ネクタイの色が青い。先輩なのか。


「あはは、そんなに驚かなくても。」


「後ろからいきなり声をかけてくるのは失礼なんじゃないですか。」


僕は反論した。


「ごめん、ごめん。ほんとに見ない顔だったから、気になっちゃって。」


「……そうですか。」


「君は、なんでここに来たの?」


「え?」


「私いつもここにいるけど、君の顔見たことないもん」


……そういうものだろうか。

顔が、顔が、って言うけど、この人は顔に何か興味でもあるんだろうか。


「たまに、来てますよ。」


……嘘だ。

図書室に来るのは今日が初めてだった。


「ふーん。」


……なんだよそれ。

そっちから聞いてきたくせに反応が薄い。


「本を借りるわけでもないのに?」


「勉強、しに来てるんです。」


また、嘘をついた。

破れた教科書で勉強など、できるわけがない。


「……そう。じゃあ勉強したら。」


「貴方が僕を呼び止めたんでしょう!?」


「うそうそ、からかっただけだよ。」


「……じゃあ、そういう貴方はここで何してるんですか。」


「図書委員」


「本を読んでないのに?」


「仕事中に読書する委員がどこにいるの?」


「日本中探したらいるかもしれませんよ。」


「君ねぇ……」


「そういえば、」


と、女子生徒が何か言いかけるのを遮って僕は言う。


「そういえば、貴方の名前を知らないです。」


「私も。」


「自己紹介しますか。」


と、遅すぎるスタートを切った。



「じゃあまず、新顔の君から。」


と、指名された。

ここにはたった2人しかいないのに。


「間宮」


「間宮 智紘、です。貴方は、」


「私は、翠月 璃玖。」


すいげつ、りく。

心の中で復唱する。

……綺麗な名前だな、と思った。


「じゃあ、学年。私は3年。」


「2年です」


「おぉ、後輩くんか」


“後輩くん”って。

もっといい呼び方あるだろ、と思うが口にはしない。


「んー。じゃあ、君のことは“ちーくん”って呼ばせてもらう。」


「……はい?」


いやいやいや。

家族でもない。

親戚でもない。

ましてや友達というわけでもない先輩に、どうして僕が“ちーくん”なんて変なあだ名をつけられなきゃならないのか。

新手のイジりか。


「なに、嫌だった?」


ここで「はい。嫌です。」と言えたら、どんなによかっただろう。


「別に……」


「うん?」


「別に、嫌じゃないです。」


……言ってしまった。



これが、僕と璃玖先輩の最初の出会いである。
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