傷心した私が一夜を共にしたのはエリート俺様同期~いつも言い合いばかりだったのに、独占欲強め、嫉妬心剥き出しな程に溺愛してくるのですが?~
(周りも私と一之瀬が付き合えばいいと思ってるとか……意外だなぁ)

 一之瀬は社内では勿論、取り引き先でも人気は高く、仲の良い私の存在なんて鬱陶しいだけだろうと思っていたのに、菖蒲の話によれば意外にも私の存在は認められているらしい。

(っていうか、私と一之瀬ってそんなに仲良いって認識なんだ……まあ、そうだよね。彼氏いてもご飯とか行ってたし、私としてはあくまでも仕事の延長や友達としてだからやましい事は一切無かったけど……周りからしたら、付き合ってないばかりか私に彼氏がいた事すら、驚きだろうな……)

 一之瀬の気持ちを知り、意識するようになってからというもの新たな発見の連続だ。

 そんな事を思いながら駅の改札を抜けた私は電車が来るまでまだ少し余裕がある事を確認しながら階段を昇ってホームへと向かっていく。

 そして、中央付近に差し掛かった頃、「あの、すみません」と肩を軽く叩かれ後ろから誰かに声を掛けられた。

「はい?」

 声も聞き覚えの無いものだし、一体誰だろうと思い振り返ってみるとそこには、整った顔立ちで清潔感がある身なり、そして何より見るからに人の良さそうで優しげな爽やかイケメンが立っていた。

 そんな彼が私なんかに何の用かと思いきや、「これ、落としましたよ」と何かを手にしながら差し出してくる。

「あ! 本当だ。すみません……全然気が付きませんでした!」

 彼が持っていたのは薄ピンク色のパスケース。どうやら私はどこかで落としてしまったらしく彼はそれに気付いて拾い、届けてくれたようだ。

「階段を昇っている途中で落としていたので、気付けなかったんだと思いますよ」
「そうだったんですね、すみません、わざわざ」
「いえ、大した事はしていませんから。それじゃあ、俺はこれで」
「はい、本当にありがとうございました、助かりました」

 私がお礼を口にしながら軽く頭を下げると、はにかむ様な笑顔を向けた彼は、そのままホーム奥の方へと歩いて行った。

(良い人もいるもんだなぁ)

 受け取ったパスケースを鞄にしまい、電車が来るまでスマホでも見ようと手にした瞬間、

「今の男、誰?」
「一之瀬!?」

 走って来たのか、少し息切れしていた一之瀬が私の元へやって来ると、少し怒ったような口振りでそう尋ねてきた。
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