さよなら尾崎くん

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立秋からしばらく過ぎて、街路樹の葉が色付き始めた通学路。いつもより少し早めに家を出ると、人通りはまばらだった。遠くに見えるスーツ姿のサラリーマンの背をぼんやりと眺めていたら、後方から騒がしい靴音が響いた。

「航!(わたる)やっと追いついた」

「無理して俺の時間に合わせなくても」

「一緒に歩きたいの!」

つれない態度に頬を膨らませる園田恵(そのだめぐみ)を宥めて、歩調を合わせて駅に向かう。僕(月島航)と恵は保育園からの幼馴染で、些細なことでも話せる親友の間柄だ。けど、いまは少し違う。幼少期は線が細くて棒のようだった体躯が、高校に入ってからは美しい曲線の丸みを帯びてきたし、胸だって膨らんできた。いつの間にか嗜んでいた薄ピンクのリップグロスが妙に大人びて見えて、つい異性を意識してしまう。

片や恵はというと、人懐こい話し方も、過剰なスキンシップも相変わらず子供のままで、照れ隠しで突き放しがちになった僕を気にもせず、お気に入りの距離感を保っている。脳裏に浮かぶ煩悩を振り払い、軽快な歩調のまま、愛犬と散歩中のお年寄りを追い越そうとした時、ふと脚を止める僕を見て、恵が言った。

「まさか、また見えるの?」

「うん。今朝のは電柱脇で物悲しそうに佇むおじさん……」

「そう。私にはやっぱり見えないなぁ」

目配せした先を、恵は何度も眺めているが、楽観的な性格のおかげで、全く恐れはしない。そこは救いだ。


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