トップアイドルの恋 Season2〜想いを遂げるその日まで〜
「ねえ、瞬くん。さっきから様子が変だよ。どうしたの?」
「…ヤキモチ焼いてた」
「は?ヤキモチ?」
「明日香が、他の男に取られるかもしれないって。でももしそうなっても、俺にはどうすることも出来ない、奪い去る訳にもいかないって葛藤してた。10年間、ずっと」

瞬くん…、と明日香が呟く。

「10年前、必ずいつか明日香を迎えに行くと俺は誓った。その想いが揺らいだことは一度もない。だけど、明日香にとって10年は長すぎる。俺はますます仕事の責任を重く感じて、明日香に軽々しく話しかけたりも出来なかった。好きだと言って抱きしめたり、電話したりデートしたり。普通の女の子が当たり前のように出来る恋愛を、俺は明日香に何一つしてやれなかった。そんな俺が、明日香に待ってて欲しいと望む資格なんてない。そう思ってた。ただ、明日香が手の届かないところに行ってしまったらって不安で…」

黙って聞いていた明日香が顔を上げる。

「瞬くん。私、待ってたんじゃないよ」
「…え?」
「10年間、私はただ瞬くんを待ってた訳じゃない。瞬くんと一緒に歩んできたの。瞬くんの背中を見て、必死に追いかけて、少しでも力になりたくて、支えたくて…。私、瞬くんがいたから成長出来た。他の誰かのところに行こうなんて思ったこともない。だって瞬くんは、いつだって最高にキラキラと輝いてくれてたから。瞬くんはずっと私の一番星なの」
「明日香…」

瞬の目に涙が浮かぶ。

「10年間、何もしてやれなくてごめんな、明日香」
「ううん。いつも瞬くんの近くにいて、カッコいい瞬くんをたくさん見せてもらった。とっても幸せな10年間だったよ」

水色のワンピースを着てにっこり笑う明日香を、堪らず瞬は胸に強く抱きしめた。

「ありがとう、明日香。これからは俺が必ず明日香を幸せにする。そばにいてくれる?」
「うん。この先もずっとそばにいる。私が瞬くんと離れていたのは、生まれてからの17年間だけ。その後の私の人生、ずーっと瞬くんのそばにいたい」

明るくそう言う明日香に、瞬も笑顔になる。

やがてゆっくりと腕を解き、明日香の両手を握った。

「10年間ずっと心に決めていた想いを伝えるよ。明日香、俺と結婚して欲しい」
「瞬くん…」

そう言った切りうつむいたままの明日香に、瞬は不安になる。

「明日香?」

顔を覗き込むと、明日香はおずおずと視線を上げた。

「許されるのかな?私」
「え?」
「たくさんのファンの人に、許してもらえる?私なんかが、トップアイドルの瞬くんと結婚するなんて。瞬くんのイメージが悪くなったり、サザンクロスの人気が落ちたりしたら…。そう思うと怖くて。しかも私は裏方のスタッフなのに、みんなを輝かせて支える立場の人間なのに」

そう言ってまたうつむく明日香に、瞬は真剣に言葉をかける。

「明日香。俺は一人の男として明日香にプロポーズする。サザンクロスのメンバーではなく、ただの柏木 瞬として。だから明日香も、チーフデザイナーではなく、小池 明日香として気持ちを聞かせて」

え…と、明日香が顔を上げた。

「俺は10年前から明日香のことが大好きだ。明るくて優しくて、無邪気に笑う明日香の笑顔が大好きだ。仕事に打ち込む真剣な表情もカッコよくて、健悟に向ける眼差しは愛情に溢れてて、俺にくれる言葉はいつも力強くて励まされる。俺は明日香の全てに支えられて、ここまでやって来られたんだ。明日香のいない人生なんて考えられない。10年分の想いも載せて、必ずこれから明日香を幸せにしてみせる。俺と結婚してくれ、明日香」

瞬くん…と、明日香は目を潤ませる。

「私も瞬くんが大好きです。どんな困難にも負けずに立ち向かって、悩みながらも最後は必ずやり遂げる。そんなあなたを尊敬しています。色んな批判や中傷も全て受け入れて、それでも静かに笑ってみせる瞬くんは、私なんかの手の届かないほど高みにいる人です。そんなあなたが私を好きだと言ってくれると、信じられないと思いながらも、心の底から嬉しくなるの。ずっとそばで、あなたと一緒に生きていきたい、そう思ってしまう。それが私の正直な気持ちです」

瞬は微笑んで頷く。

「結婚しよう、明日香」
「でも…」
「必ず俺が明日香を守る。約束するから。俺を信じて欲しい」

真っ直ぐに自分を射抜くような力強く優しい瞬の眼差しに、明日香の目から涙がこぼれ落ちる。

「はい。瞬くんを信じます」
「明日香…」

瞬はホッとしたような笑顔をみせて、明日香を胸に抱きしめた。

「ありがとう、明日香」
「ううん、私こそ。ありがとう、瞬くん」

やがて瞬は明日香の頬に右手を添え、愛おしそうにその瞳を覗き込む。

健気に真っ直ぐに自分を見つめてくれる明日香に微笑むと、ゆっくりと目を閉じてキスをした。

10年分の想い
10年分の愛
10年分の感謝
そしてこれから先の、何十年分もの誓いを込めて…
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