結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~
……きっとノア様はそれを知っていて、そのせいで私が憎いのだろう。だってあの時ベティが選ばれていたら、禁断の恋なんて周りから陰口を言われることもなかった。
王子と使用人が結ばれるなど、この国の制度では許されることはない。ふたりは身分という大きな壁により、結ばれない運命を辿る羽目になったのだ。ノア様が国王となり独断で法律を変えれば結婚も叶うだろうが――そんなの、何年先のことだろう。
そのためノア様が、ベティが伯爵令嬢になるチャンスを奪った私を憎むのは当然だ。私は最初の人生から、そう理解していた。だから嫌われていたのかとも納得がいった。
 そんな私がふたりをよそに結婚して幸せになろうとするから、ノア様は気が狂って私を殺しにきているのだろう。お前に結婚などさせないと。
しかし、私にとっても結婚は譲れない条件だ。周りの援助なしでは、最悪伯爵家は没落してしまう。
レーヴェ伯爵家にこれでもかというほどの恩がある私は、死の恐怖よりも恩返しの精神が勝っていた。
「これで七度目なわけだけど……どういう相手を選べば今度こそノア様から逃げられるのかしら」
 喧騒の中、ひとり立ち尽くし私は呟く。
 これまでもいろんな相手を試してみたが、すべてだめだった。
 優秀な騎士、留学生の王子、商売を成功させた男爵令息、最新でいうと、十歳年上の侯爵。騎士と王子は繰り返し婚約してみたっけ……。
 だが、記憶力のいい私でも、なぜかひとりめの婚約者だけよく覚えていない。ただ、最悪な相手だったことはたしかだ。彼のことを思い出そうとすると――。
「うっ……痛っ……!」
 こんな感じで、いつもひどく頭が痛くなる。まるで呪いのように。
 だけどもはっきり覚えているのは、最初の人生でも、私はノア様に殺されたということ。なぜなら最後に見た記憶が、私に剣を突き立てるノア様だったからだ。
「ノア様も、そろそろ真剣に結婚相手を選ばないと環境を変えるって国王様に言われているみたいよ」
 頭痛に眉をひそめていると、先ほどの令嬢たちの噂話がまた耳に入って来た。意識をそちらへ集中させると、頭痛は次第に収まっていく。
「それって、遠回しにあの侍女をやめさせるってことよね」
「もっと早く手を打てばよかったのに。今頃ふたりでお楽しみ中よ」
「侍女が追い出されたら、私たちにもチャンスがくるかしら」
「フリーダ嬢がいるから難しいんじゃない?」
 楽しげに噂話をする令嬢たちを見て、なんともいえない気持ちがこみ上げる。
 ……ノア様もベティも、愛する人と身分が違うってだけで引き離されるなんてかわいそう。ベティがいつからノア様の専属侍女になったかは知らないけれど、きっと長い時間をかけて、ふたりは愛を育んできたはずだ。
 それなのに想いが報われないなんて、そりゃあ、ノア様も闇堕ちしちゃうわよね。
 どうにかふたりが結ばれれば、きっと私もノア様に殺されるなんてことはなくなると思うけれど――あ。
 私は七度目にして、斬新な案を思いついた。私がノア様と結婚すれば、どうにか解決できるのではないか、と。
 もちろん、ベティからノア様を奪ってやろうなんて考えていない。
 私はただのお飾り妻でいいのだ。陰でベティと愛を育んで、好きにしてもらって構わない。そうすれば、ふたりは引き離されないで済む。その代わり――レーヴェ伯爵家の援助だけしてくれるならば。
 王家の援助があれば、正直怖いものはない。アルノーだって学園に通えるし、周囲から馬鹿にされることもなくなるだろう。
 時期を見て、もしノア様とベティが正式に結婚できるような環境が整えば、すぐさま離縁もばっちこいだ。それまでに実家を立て直しておけばいいこと。そこからは、私も自由気ままな人生を送らせてもらう。
 いくら私を嫌いなノア様にとっても、決して悪い話ではないはずだ。
 ……これまでは嫌われているという理由でノアを避けていた。だが、今回は彼に寄り添ってみるのもアリなのではないか。
 愛する人と一緒にいるために必要な存在を、ノア様が殺すことはしないだろう。私も結婚できればいいし、うまくいけば、これ以上にいい方法はない気がする。
 すると、ちょうどいいタイミングでノア様がベティと共に再度会場へ戻って来た。今まではこの時間、既にほかの令息と話し込んでいたから知らなかったが……戻ってくるなり、ノア様の視線は私へと向いている。いつもと変わらず、恨めしそうな表情だ。
 ずっと逃げていた。その視線が怖くて、目を逸らしていた。でも――今世は逃げない!
「ノア様」
 私は自らノア様のもとへ駆け寄ると、にっこりと笑ってこう言った。
「よければ私とお話しませんか?」
 そう言われた時のノア様の驚いた顔は、一生忘れないだろう。

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