結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~
 私とノア様は急いで着替え、アルベルト様に連れられ外へと急ぐ。
 私たちより先に事の事態を知った国王様によれば、なんと今朝いきなりフリーダのいるトイフェル侯爵家から、鉱物資源の取引をやめるという申し出があったというのだ。トイフェル侯爵家の資源を独占されることは国の経済力にも関わると感じた国王様がどうにか説得を試みるも、「だったらうちの娘と結婚しろ」の一点張りらしい……。
 フリーダは「エルザより劣っているところがなにひとつ見つからない。王妃の器に相応しくない」と言っているようで、彼女に同意した令嬢たちが一緒になってデモを起こしているよう。
 貴族のあいだでは、私は元々孤児院出身というのも知られている。さらに結婚お披露目パーティーでノア様が大衆の前で私を好きだと宣言したことも、令嬢たちの嫉妬心に火をつけたのではとアルベルト様が言っていた。最初に私がノア様との結婚を世間に許されていたのはあくまでも〝侍女と恋仲にあるノア様のかわいそうなお飾り妻〟だったからだ。
「なんとかトイフェル侯爵と彼女らを納得させてくれ」
 国王様は疲弊した顔で私とノア様にそう言った。できない場合は、国の利益を考えれば離縁も考えなければならないと心苦しそうに言われるも、ノア様の顔は余裕満々だった。
「父上、お任せを。一瞬でエルザこそがいちばん俺に相応しい妻なのだと納得させてみせます。それと、エルザについて報告があるので、父上もどこかで聞いていただけると」
 ノア様の説明を聞いて、私は一晩寝てすっかり忘れていた大事なことを思い出す。
 ――そうだ。今の私は……特別な力を持っている。
「エルザ。自信を持って。……聖女が王家の人間と結婚するっていうのは、昔の人間が決めたしきたりだ。誰も文句は言えやしない」
 ネタばらしを待ち望むかのように、ノア様は私に耳打ちをしてにやりと笑う。
 そして私とノア様はようやく門の前へたどり着くと、フリーダ様率いる〝結婚反対派〟の方々を前に立ち止まる。
「ノア様、やはりわたくし、納得いきません!」
「彼女は相応しくないわ」
「魔法も使えなければ、上流階級の血が流れているわけでもないし……」
 一斉に飛び交う不満をすべて聞き入れることはできないが……とにかく納得いかないことだけはわかった。
「俺と君は、あらゆることを乗り越えてもまだ邪魔をされる運命にあるんだな。できればこれで最後にしてもらいたい」
 顔をしかめたくなるほどの不満を叫ばれながらも、ノア様は私のほうを見て呆れたように笑っている。
「ちょっとノア様、聞いてるのですか? わたくしを納得させてくれなければ、王家へ今後いっさいうちの資源は渡しませんから!」
「じゃあ、君を納得させればいいんだな。フリーダ」
 強気な態度のフリーダ様に、ノア様がいつも通りクールな態度で応戦する。
「できるのですか? エルザ様との結婚がうちの領地が生み出す資源よりも、国にとって大事であるという証明が」
「ああ。ここでその証明を実演してみせよう」
 実演という宣言に、反対派がざわつく。
 ノア様が手を挙げると、後方に控えていたアルベルト様が前に出てくる。そして、私に向かって手の甲を差し出した。
「おいノア、これがなんの証明になるんだ?」
「いいから見ていろ」
 アルベルト様も私が聖女になったことを知らないため、ノア様の言う通りに動くも訝しげに眉をひそめている。
「エルザ、手をかざしてみるんだ。それで、傷が治るイメージをすればいい。すると体内を巡る神聖力がエルザの意思に同調し力を貸してくれる」
 ノア様は私の隣に立つと、聖女の力を発揮するやり方を教えてくれる。きっと、魔法も同じようにして発動させているのだろう。
「……わかりました」
 私は言われた通り、アルベルト様の手の甲にできた短い切り傷の上に手をかざす。すると、私の身体を包んだのと同じ虹色の小さな光の粒が傷を包み、あっという間にできたばかりの切り傷を治してしまった。
「……これは」
 アルベルト様も私の聖女の力に気づき、手の甲をこれでもかというほど凝視する。
 フリーダ様も最前列で見ていたため、なにが起きたのかを把握したと同時に、私が何者なのかを理解したようだ。
「――今ここに、我が妻エルザが聖女として神に加護を受けたことを宣言する」
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