結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~
「でも、だったらどうして今日は話しかけてくれたんだ?」
 どういう風の吹き回しなのか、それを確認したいのだろう。
「それは……ノア様とゆっくり話す機会は、これが最後になるかもと思って」
「最後? なぜ?」
 さっきから、ノア様は私の言葉の確認ばかりしてくる。
「来年からは、私はこのパーティーには参加できなくなると思います。ノア様と顔を合わせる機会は、今日が終わればほとんどなくなってしまうかと……」
 実際に、これまではそうだった。
 私は今日のパーティーで数名の婚約者候補を作り、そこからの時間はほぼ彼らに費やしていた。ガチで婚活をしていたのである。それ以外の時間は家の仕事や家事を手伝ったりと、そういった時間にあてていた。とにもかくにも、独身の私がノア様と会うのは、いつもの流れでいうと今日が最後なのだ。
「……もし気分を悪くしたらすまないが……その口ぶりからすると、君の家が今もたいへんだという噂は本当なのか?」
「え? えっと……それは」
「……本当なんだな」
 レーヴェ伯爵が事業に失敗したという話は、王家にまで流れていたらしい。
「お父様は優しく、人を疑うことをしないのです。それで、騙されてしまったようで……」
 私はこんな話をノア様にするべきではないと頭で理解しつつも、黙って隣にいてくれる彼を幼き日のノア様と重ねてしまい、ついつい弱音を吐いてしまった。
 お父様が詐欺に遭ったことで、家族の笑顔が失われたこと。このままでは、伯爵家が没落の危機にあること。その危機を私の結婚で救いたい――っていうのは、さすがに言わないでおいた。
「……そんなことになっていたのか」
「ごめんなさい。ノア様に聞かせるような話ではありませんでしたね」
「いいや。さぞかしたいへんだったろう。俺にできることはないだろうか」
 真剣な眼差しで、ノア様は私にそう言った。
 ノア様って、やっぱり優しい人なんだな。それともこの話を聞いて、ベティがたいへんな目に遭わなくてよかったと考え、私に同情心が湧いたのかしら。
 ――それより、これはノア様に取引を持ち掛けるチャンスだ。
「ノア様……私、あなたの気持ちはよーくわかっております! これは、私たちにとって互いに幸せな未来を紡ぐためのご提案です」
「……提案?」
 私はずいっと前のめりになり、ノア様の目を真っすぐと見つめる。彼の瞳には、まだしっかりと光が残っていた。
「お飾りで構いません。私からノア様に、家の援助以外で求めることはなにひとつございません。だから、私と結婚していただけませんか!?」
 頭の切れるノア様なら、私の意図はすべて伝わるはずだ。そう思い、玉砕覚悟で告白をした。自分を殺した相手に求婚するなんて、馬鹿げていると思っている。だが、他の誰と結婚しても殺されてきた。だったら、試してみる価値はある。
 私からの突然の求婚に、ノア様の海のような瞳が大きく揺れて波打っている。その後しーんとした沈黙が流れ、私はこの気まずさに耐えきれなくなってしまった。
「な、なーんて。さすがにお飾りといっても、私が王族の妻になるなんて無理――」
 へらへらと笑いうまく誤魔化して、不敬罪だとブチギレられる前に退散しようとする私の両手をノア様ががしっと握る。
「しよう」
「……へ?」
「俺たち、結婚しよう」
 夢でも見ているのだろうか。
 私の手を握るノア様の手は、びっくりするほど温かい。そして、絶対に離さないというように強く握られている。
「君がいい。君しか考えられない」
「……ノア様」
「俺たちの未来のために、俺と結婚してくれ。エルザ」
 最後にまた、ぎゅうっと力が加えられる。もはや痛い。
 それにしても、こんなに必死なノア様は初めて見た。きっと私の思惑がしっかり伝わったのね……!
「はい! お互い幸せになりましょうっ!」
 ノア様はベティとの愛を貫くために。
 私は、家族の笑顔を取り戻し、無事にループから抜け出せして幸せに暮らすために。
 ――こうして、私の七度目の人生は、これまでにない大きな光を見出したのだった。
 
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