888字でゆるいミステリー

第五話 「クリームが入っていないシュー」






「隣に引越して参りました。これどうぞ」



感じのいいお隣さん。

わあ、シュークリーム!

ママ達が帰って来てすぐ報告した。



「丁寧な方ね」

「家もお礼しないとな」

「それより早く食べようよ!」



小さくて可愛いシュークリーム。

三人で各々口に含むと、サクッ!

そこまでは良かったんだけど……。



「何これ、クリームが入ってない……」

「他のも全部だ」

「お店が間違えたのかしら?」



そんなことある?

でも、そうでなければ何?

まさかわざとじゃあるまいし。

謎は謎のまま中身のないシューは冷蔵庫行き。




翌日、ママがお隣さんと顔を合わせた。



「昨日はご丁寧にシュークリーム……を頂きまして」

「恐れ入ります。今後ともよろしくお願いします」



あまりに感じのいい人だったので、ママもクリームが入ってなかった事をいえなかった。

その晩、中身のないシューをどうするか皆で話し合う。



「明日生クリームを買って来るわ」

「苺も買お!」

「いいわね」

「俺は黄色いクリームのがいいなぁ」

「じゃあパパ作ってよ」

「そりゃ無理だ」

「じゃあパパの意見は却下ですぅ」




翌日、皆で買物に行こうと外に出ると、丁度お隣さんが出て来た。



「あら、お出かけですか」

「はい、ちょっとそこまで」



その時パパが言った。



「そういえば、頂いたシュークリームにクリームが入ってなかったんですけど」

「えっ!?」



お隣さんも目がまん丸!

お店に検めると言って箱ごと引き取っていった。










その数日後。

中身の詰まったシュークリームを携えてお隣さんが来た。



「先日はご迷惑をおかけしました」



後ろには見知らぬ男性がいる。



「そちら旦那さん?」

「いえ……」



聞けば、この人こそがクリームの入っていないシューを作った張本人だという。

いつもお隣さんが気になっていたが、なかなか声をかけられず、話すきっかけが欲しくてクリームを入れずに渡したらしい。

お陰でこの度お付き合いすることになったそうだ。

謎が解けたらこんな甘い結末が待っていようとは……!



「パパ、ファインプレー!」

「本当ね。パパが言わなかったら、今日の二人はないわ」

「いい事した後はシュークリームがうまいな。

やっぱり黄色いクリームが一番だ」

「パパの意見に異議なぁし!」























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