888字でゆるいミステリー

第七話 「ゆれた 緑カーテン」






お隣さんの家に泥棒が入ったらしい。

ちょっと家を出た隙に入られたそうだ。

こんな平凡な田舎町ではちょっとした事件。

しかも、どうやら私はその空き巣を見ていたらしい。



「ええ、そうなんです。

そこの2階の窓、緑のカーテンが揺れるのが見えて……。

もちろん奥さんだと思って、不信に思うことはなかったんですけれど」



初めて警察に聴取されたわ。

今も興奮でドキドキしてる……。

警官がお隣の奥さんに確認している。



「それで盗られた物の確認なんですが……」

「だから、高級マグロ! 大間の本マグロの大トロよ!

100g7600円もする高級品よ!」

「その他には?」

「大トロだけよ! 大損害だわ!」



……え?

あんなに大騒ぎして、盗られたのってマグロだけなの……?

ぽかんとして見ていると近所で一人で暮らしているご婦人、麻さんが通りかかった。



「お隣のお宅どうなさったの?」

「あの、泥棒が入ったみたいで……。

盗られた物はマグロだけだったらしいんですけど……。

私もたまたま窓のカーテンが揺れるのを目撃していて……」



麻さんはぐるりと視線を巡らすと、あらあらと笑った。



「犯人は今頃夢の中ね」

「……えっ? どういう事ですか?」


麻さんが指さした先。

太った猫が緑のカーテンの窓際で寝ている。

あれはお隣の飼い猫プリンだ。

……あっ……?

麻さんがわかったでしょ? というように微笑んだ。






そうか……。

マグロを盗ったのは、プリンだったんだ……。

よく考えたら、私がお隣の家の窓を見たのだって、プリンがたまに窓辺にいるから、それで見る癖がたまたまついていたんだった……。



「私ったらどうしましょう……。カーテンが揺れたなんて証言してしまって。警察はきっと、いもしない犯人を探す羽目になってしまいます……」

「そうねぇ……。お隣さんもここまでの大騒ぎにしてしまっては、今さら家の猫が犯人でしたなんて言えなくなってしまうわねぇ……。助けに行ってあげましょうか」

「そうですね……!」


麻さんの単純明快な推理で犯人が判明し、警察は引き上げていった。

お隣さんも勘違いして大騒ぎしてしまったことに平謝り。

プリンはというと……。

しばらくの間、安い餌しかもらえなくなったそうだ。



                                                              









            
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