パティシエ総長さんとコミュ障女子

デザートのイチゴを食べ、食器を片付ける。

その時、気づいた。


「ケーキ!!!」


部屋に置いてきてしまったのだった。

外もすっかり暗くなり、自分の姿が反射する窓の前を駆け抜け、部屋に戻る。


「傷んでいませんように…!」


急いで箱を開けると、まだ保冷剤が冷たかった。


「よ、よかったぁ…」


やっと落ち着いてケーキを見ることができる。


「……綺麗。」


渡されたのはフルーツタルトだった。

たくさんフルーツの乗った美しいケーキ。

箱に付いていたプラスチック製のフォークでケーキの先端を突いた。

柔らかいケーキは、フォークに乗っても崩れなかった。


「いただきます。」


ケーキを口に含む。

ぽろり


「あ…れ?」


ぽろ、ぽろぽろ


「なんで、私、泣いて……」


御神楽の店のケーキはひどく美味しかった。

胸が締め付けられるような甘さとフルーツの酸味。

口の中が幸福に満たされてとても甘美な時間が訪れた。

そして、複雑な切なさと感動が湧き上がってきて…。


ぽろり。


私は人生で初めて食べ物に涙を流した。


「なんで…なんで涙が…?どうして……」


我を忘れてケーキを頬張った。

意味もわからず飲み込み続けた。

ケーキは、信じられないほど美味しかった。
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