新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜
「食事して帰ろう」
「えっ?」
「話もあるし」
「あっ……はい」
我に返ると、 隣には高橋さんが居てくれる。 こんな幸せなことはないと、 実感した。
「ヘビーなものは、 まだ無理だろうから……」
高橋さんは、 ちらっとこちらを向いてそう言うと、 車を発進させた。
軽い食事でないと、 まだあまり食べられないのも事実。 何処に連れて行ってくれるんだろうとソワソワしていると、 着いたお店は大好きな豆腐料理のお店だった。
良かった。 本当に、 久しぶりのお豆腐屋さん。 嬉しいな。 それにしても……話しってなんだろう?
「お前。 もっと食べて体力付けないと、 駄目だなぁ……もう少し太った方がいい」
「これでもかなり今日は、 頑張っているんです!」
そんな私を見て、 高橋さんは笑っている。
「明日の社内旅行、 行くのか?」
「はい。 一応、 病院の先生にも伺ったんですが、 夜更かししないで疲れないようにすればいいって、 言ってもらえたので……」
せっかく積み立ててきた旅行費だし、 それに1年に1度しかない。 何となく、 今年も行きたかった。 何より、 高橋さんも行くからっていうのが一番の理由なのかもしれないけれど……。
「それじゃ、 ちゃんと医者との約束は守らないとな」
「はい。 そのつもりで参加します」
高橋さんは、 そんな事を言いながらジャケットの内ポケットから封筒を出すと、 私の前に差し出すようにテーブルの上に乗せた。
何だろうと思い、 高橋さんの顔を見た。
「中……見てごらん」
高橋さんに言われるまま、 封筒の中身を出して見た。
「えっ? これは……」
驚いて、 高橋さんの顔を見た。
「陽子ちゃぁん。 何か、 不満かなぁ? もし、 不満だったら貴ちゃん聞くけど」
私の驚いた顔を見ながら、 高橋さんは悪戯っぽく笑っている。
貴ちゃんって……。
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