新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜
「フッ……。 やっと言った」
やっぱり、 お見通しだったんだ。
「望み通りにしてやるよ!」
高橋さんが、 再び私に愛を刻み込み始めた。
「フッ……。 相変わらず、 厳しいな……」
えっ?
「ご、 ごめんなさい」
咄嗟に、 高橋さんに謝ってしまった。
私って、 きっとこういう事を何も知らないし、 こんな時でも高橋さんをいろんな意味で満足させてあげられないから、 面倒臭いのかな?
「アアッ……」
その時、 突然高橋さんを感じた。
ああ……駄目……。
いろんな今までの事が頭に浮かんできて、 目尻を涙が伝った。
すべては、 高橋さんの誕生日に始まった出来事……。
誕生日プレゼントを持って、 高橋さんのマンションに行ったあの日。 ミサさんに会ってしまった。
それから高橋さんに、 一方的に別れを告げられて……夜空を見上げながら泣いていた高橋さんを見て、 追い掛けて転んだあの夜。
あれから泣いてばかり居た。 自暴自棄にもなった、 あの慟哭の日々。 田中さんに送別会の帰りに襲われそうになって、 高橋さんが助けてくれて……家に送ってもらった事も気づかずに、 酔って眠ってしまっていた夜、 時計をしていないと知って、 突き付けられた現実。 会社で会うのも辛くて、 自分でも気付かぬうちに体調を崩して、 会社を休んで1人で心細かった月曜日。 思いがけず、 髙橋さんが仕事帰りに来てくれて……あの時は嬉しかった。
結局、 肺炎になってしまって入院することになってしまい、 周りの人達に迷惑を掛けて……。 
ミサさんとの間に子供が存在した事を知って、 高橋さんが私との別れを決めたと知ったあの日。
その高橋さんと血の繋がった、 ミサさんとの子供を助けるために、 身を引いてくれとミサさんに言われて……。 ミサさんとの本当の別れを選んでくれた高橋さんが、 病室でミサさんと決別した、 あの日。 
髙橋さん……。
すべての出来事が凝縮されて、 全身を駆け巡って涙となって戻ってきた。
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