奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

* А.в ヘルバート伯爵領コトレア *

 大抵、異世界転生ものの小説やら、乙女ゲームなどでは、攻略対象が四人。

 よく見る話では、お決まりのキャラクター、きんきらの王子様。知的な雰囲気の眼鏡。人懐こい、年下系やショタが人気の少年。そして、短い髪のスポーツ系が最後の一人。

 ここに大人の要素を練り込んでくるのなら、先生、騎士、魔導士など大人の男性を組み込んで、そして、外国から留学中の他国の王子。

 ヒロインと言えば、必ず、小柄で、ふわふわの髪。小説でも、ゲーム内でも、色合いがピンク系で、まさに、ふわふわ、乙女チックが似合う少女。

 そして、大抵、平民あがりの少女か、問題ありの男爵令嬢。
 そうでなければ、ヒロインは、完全無敵の清らかがモットーの“聖女さま”である。

 そのヒロインをイジメ抜く悪役令嬢。決まって、最高位の公爵令嬢である。
 でも、美貌は最高級の美人だ。攻略対象者の一人の婚約者であることが多い。

 それで、なぜかは知らないが、これまた、必ずと言っていいほど、派手なイベントで、式典で、その四人とヒロインが悪役令嬢を糾弾(きゅうだん)し、年齢制限15歳以上であればお家断絶。18歳以上であれば、ギロチンの処刑もの。

 おかしなことに、ヒロインに賛同して、悪役令嬢を追い詰める、その他モブの貴族子女たち。公爵令嬢への嫉妬やら、蹴り落とし合いの理由で、公爵令嬢を(おとし)めていく。

 おまけに、大げさなほどのパフォーマンスで、ヒーロー達は、必ず、ビシッと、腕を大きく振り上げて、悪役令嬢に向かって指を指す。

 人に指を指してはいけないと、躾されなかったのだろうか?

 中世封建社会や王権制度では、公の場で、上流貴族や高位貴族が他家の高位貴族を侮辱するなど、許される行いではないはずだ。証拠の捏造(ねつぞう)はよくある話だったが、まるっきり証拠もなしの冤罪(えんざい)など、誰も聞く耳を持たない。

 それに、国王陛下の裁断や決定なら誰にも逆らうことはできないが、決定権ももたない名だけの高位貴族子息に、一体、どんな裁断権があるというのだろうか。

 まあ、犯罪人なら、王子くらいでも、護衛に逮捕、または捕縛させることはできるのかもしれないが、罰せられた公爵家令嬢なら、親である公爵家とて黙ってはいないのでないだろうか。

 そして、悪役令嬢に生まれ変わった現代っ子の取る道は、数パターン。


 その1:お家断絶や、断罪を逃れる為に、必死で攻略キャラに出会わないように目立たなく行動する。
 その2:自分が努力して、悪役令嬢にならず、厚生するパターン。そうすることで、ストーリーがヒロインから悪役令嬢に移行していくのだ。
 その3:異世界転生者として驚いていても、地に足つけて、しっかり生きていってやるぞー!パターン。だから、無理に隠れたり、隠したりはしない。


 上記の1のパターンは、非生産的で本当の問題解決にもなっていないので、それを努力するだけ無駄なような気がして、選ぶ気にもなれない。
 2の厚生パターンは前向きである。誰に生まれ変わろうが、自分の人生である。しっかり生きていく努力はし続けるべきだろう。
 3の選択は、生産的で同意できるものである。




 そもそも、攻略対象がバカ息子ばかりの貴族子息などという、そういった設定からして、稚拙さが丸出しではあるが、なぜか、異世界転生もののスタートは、そういったキャラクターから始まっていく。

 それも、1~2冊程度の話ではない。見れば見るほど、読めば読むほど、そういった同じ設定は、異世界転生物語の“王道”とまでもされているかのようなのだ。

 少々、考えるものがある。

 “王道”を外れると、異世界転生物語の醍醐味(だいごみ)が欠けてしまうから?

 ファンタジー、そして、現実のお話ではありませんので――の注釈やあとがきのお知らせが含まれているのは、そういった現実の世界を物語の世界と混同するな、という意味もあるのだろう。

 だから、ストーリー構成が同じでも、少々、理不尽に話を結び付けていても、面白いのなら、それはそれで良いのだ。文句ではない。

 物語の設定場所が中世ヨーロッパ系なのも、いいとしよう。
 きっと、小説や乙女ゲームをする少女や女性たちは、中世のドレスや背景に憧れるものがあるのも頷ける。ああいったドレスを着てみたいと感じても、不思議ではない。

 だが、異世界転生を、大真面目に経験してしまったセシルとしては――特別、中世のスタイルのドレスには興味もない。
 レースはきれいだが、ふりふりのスカートやら、シュミーズやら、コルセットやら、きちんとした下着だって揃っていない時代の洋服を着こなすなど、本当に面倒なだけで、苦労が絶えないのだ。

 おまけに、小説やゲームをしている女性たちは、現実面の問題をきちんと理解しているのかどうか。

 あんな脱ぎづらいドレスを着込んで、トイレの設備も全く管理されていないような原始的な場所で、毎回トイレを済ませなければならないその苦労も分かっているのだろうか?

 洗練されたトイレットペーパーがあるわけでもなく、生理用品さえ存在しない。

 中世のトイレはぼっとんトイレが常で、筒穴にそのまま落ちていって、初期頃などは、その穴が城の外の壁にそのまま垂れ流し――という悲惨な状況だって普通だったのだ。

 その点では、日本の江戸時代での(かわや)の方が、清潔だったと言えるかも知れない。

 断じて言うが、乙女の想像を壊すわけではないが、現代っ子としては、さすがに、そこまで時間を(さかのぼ)ると、あまりに悲惨過ぎて、もう、言葉が出ないのだ……。

 ドレスや、華やかな宮殿、王宮、プリンス物語―――想像する分には、とても華やかで憧れるものだ。(うらや)ましくもなるものだ。

 想像することが悪い、と言っているのではない。夢を見ることは、素敵なことである。

 乙女の物語には――そういった現実面も、問題点も出てこない。それが、“物語”なのだから。


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