天妃物語〜本編後番外編・帰ってきた天妃が天帝に愛されすぎだと後宮の下女の噂話がはかどりすぎる〜
「そこの女官、ちょっと」
「いかがいたしましたか?」

 上級女官に後宮の雀が(にぎ)やかだとだけ伝える。誰とは言わない、ただ全体に注意喚起してくれればいいだけだ。

(かしこ)まりました。後宮で噂話など不敬なことです。下級女官や下女に申し渡しておきましょう」

 上級女官は(うやうや)しくお辞儀(じぎ)して立ち去った。
 離寛はそれを見送ってなんとも複雑な顔で頭をかいた。
 雀が騒ぐ理由も分からないでもないのだ。黒緋と付き合いの長い離寛だって驚いているのだから。
 そう、天妃が天上に帰ってきてからというもの、天上の人々は今まで見たことがない天帝の姿を見ているのだから……。




「紫紺、踏み込みが甘いぞ!」
「えいっ!」
「よし、いい踏み込みだ。だが足元が甘い!」
「わあっ! っ、ちちうえ、もういっかい!」

 紫紺(しこん)は反撃に引っくり返るもすぐに起き上がって黒緋(くろあけ)に向かっていった。
 宮中にある広い庭園で黒緋と紫紺が手合わせをしているのだ。
 二人の木刀が激しく打ち合って、周囲に控えている士官や女官が歓声をあげている。
 そしてそんな二人の手合わせを穏やかに見守っている女性がいた。天妃・鶯である。
 そして鶯の膝には青藍(せいらん)がちょこんと座っていた。
 黒緋と鶯の第一子である紫紺は三歳ほどに育ち、青藍はまだハイハイの赤ちゃんである。

「あぶぅ、あー」
「そうですよ。父上と兄上が頑張っていますね」
「あいあ〜」
「ふふふ、応援しているんですね」

 鶯は青藍に話しかけながら黒緋と紫紺を見つめている。
 でも膝抱っこされていた青藍が自分も父上と兄上のところへ行こうともぞもぞ動きだした。遊んでいると思っているのだ。
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