天妃物語〜本編後番外編・帰ってきた天妃が天帝に愛されすぎだと後宮の下女の噂話がはかどりすぎる〜

 そして今日も後宮の庭先では(すずめ)たちが楽しそうにおしゃべりしている。
 庭帚で掃除をしながら四人の女官が楽しそうだ。

「昨夜も天帝は天妃様のところにお渡りになったそうよ」
「今の後宮は天妃様だけだから、天妃様もお気持ちを楽にしているでしょうね。以前は後宮に行った後、天帝がどの妻室(さいしつ)のところに行くかが問題だったから」
「ほんとよね。あの時は大変だったけど、今の静かな後宮は少し退屈だったり……」
「駄目よ、そんなこと言ったら。もし聞かれでもしたら大変よ?」
「そうそう。とてもお幸せそうにしてらっしゃるんだから」
「そうよ。昨夜だって天帝は天妃様の舞をご鑑賞になって、そのまま一緒に(ねや)に入っていかれたそうよ。朝も一緒に出ていらして、とっても仲がよろしいようで……」
「キャーッ、なんだかステキ! 天妃様、愛されすぎでしょ!」

 四人の女官がはしゃいだ声をあげる。
 足元では六羽の雀がチュンチュン鳴いていた。
 そのうちの一羽が小さな羽で飛び立っていく。
 飛びながらチュンチュン鳴いて、神域の森の方角へ。
 そこにある池にポチャン。雀が飛び込んだ。
 するとみるみるうちに雀は形を変えていく。口ばしと爪が鋭く尖り、その眼光は赤く輝く。
 そこにいたのは雀ではなく怪鳥。
 怪鳥は鋭い口ばしで狭間(はざま)の結界を突破し、人間がいる地上の空へ飛び出した。
 そして山奥にある小さな屋敷の庭へと降り立った。

「おやお帰り。ご苦労だったね」

 白髪の老婆が姿を見せた。
 老婆は「そうかいそうかい」と怪鳥の話しを聞くと、御簾(みす)の向こうにいる女人に話しかける。

「三の妻様、天上に放っていた雀が帰ってきました。天上には天帝と天妃が帰り、二人は仲睦(なかむつ)まじくすごして」
「黙れ!!」

 御簾(みす)の向こうから鋭い声が遮った。
 バサバサと衣擦れの音がしたかと思うとバサリッと勢いよく御簾が捲られる。
 そこにいたのは上等な唐衣(からぎぬ)を召した美しい顔立ちの姫だった。ひと目でやんごとない身分の女人だと分かる。
 三の妻。そう呼ばれたこの女人は、天帝・黒緋の三番目の妻だった。今は離縁されて後宮を出されたのだ。

「許さない……! 許さない許さない許さない! 天妃さえ戻らなければ黒緋様の寵愛は私のものだったのに……! おのれ、天妃めぇ……!!」

 三の妻はわなわなと体を震わせた。
 瞳は赤く爛々として、人ならざるものの輝きを帯びている。
 三の妻は憎々しげに怪鳥を睨む。怪鳥に手をかざし、空をグッと握りしめた。
 瞬間、――――ボトボトボト……ッ。
 怪鳥の肉片が地面に零れ落ちた。神気で握り潰されたのだ。

「お前の話など聞きたくないわ」

 三の妻は冷たく吐き捨て、空を睨みつける。
 嫉妬に狂い、憎悪に落ちた三の妻。ひそかに天妃への恨みを募らせていくのだった……。



本編後番外編・終わり


次回から第二部開始です。
天妃を恨む三の妻が鶯に復讐しようとしますが、もちろん溺愛ハピエンです。
また新しく連載します。

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こんにちは。 天妃物語を読んでくださってありがとうございます。 楽しんでいただければ嬉しいです。 本作品はシリーズ作品です。 【第一部】 天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜 天妃物語 〜本編後番外編・帰ってきた天妃が天帝に愛されすぎだと後宮の下女の噂話がはかどりすぎる〜 【第二部】 天妃物語 ~「私以外にもたくさん妻室がいた天帝にお前だけだと口説かれます。信じていいのでしょうか」~ ■登場人物■ 鶯(うぐいす)…斎宮(さいぐう)の白拍子だったが天妃の記憶と力を取り戻す。斎王の双子の姉。 黒緋(くろあけ)…天上の天帝。 紫紺(しこん)…黒緋と鶯の子ども。長男。 青藍(せいらん)…黒緋と鶯の子ども。次男。 離寛(りかん)…黒緋の友人。天上の武将。 萌黄(もえぎ)…斎宮(さいぐう)の斎王(さいおう)。鶯の双子の妹。人間では稀にみる神気の持ち主。 ※平安時代、神という存在は天上の天帝。 ※斎王とは伊勢の斎宮に暮らし、地上で天帝に祈りを捧げる人間。表向きは歴代皇女の任だが、実際は神気の強い女性が選ばれている。
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