お菓子に釣られたシンデレラ 王女様の命令で私が王太子様と恋愛結婚!?
1 美しきお姫様の(悪)企み
「ほら、アナベル、口を開けて?」
「ん! お、おいしいです……!」

 口の中でとろける甘いお菓子。
 初めての食感に感動して、つい目を輝かせてしまった。すると、彼は嬉しそうに甘く微笑む。

「こっちも美味しいよ。ほら、あーん」

 目の前の見目麗しい御方が、その長く綺麗な指先で、とっても美味しそうなお菓子を摘む。優雅な仕草で私の口に押し当ててくるので、抵抗出来ず口を開いてしまう。

「んむ! 甘いですっ♡」

 私は淑女としては落第点であろう大きなお口で、入れられるがままお菓子を食していた。美味しいお菓子が目の前に差し出されて、どうして拒否出来ようか! 
 
 つまり私は今、この絵画のように完璧で美しい御方、王太子殿下に、恐れ多くも餌付けされているのである。

 漆黒の闇夜のような艶やかな黒髪と、王族であることを示す黄金の瞳。この御方は紛うことなき王太子殿下だが、随分聞いていた話と違う。
 冷静沈着で無慈悲な『氷の王太子殿下』と噂されているはずのこの方は、目の前で愉快そうに私を餌付けしているのだ。

 どうして、何故こうなった!?

 それは、あのお茶会の日に遡る──。


***


 色とりどりの薔薇が咲き誇るローズガーデン。

 柔らかな陽光が差し、吹く風も暖かい今日は、絶好のお茶日和である。

(美味しそう……!!)

 キラキラとベリーが眩しいケーキ、小さなオレンジ色のゼリー、スコーンにクッキー。ローズガーデンの中心に位置する四阿のテーブルに、王宮シェフ自慢のスイーツが並ぶ。そのカラフルな色合いは、周りの薔薇にも負けていない。年若い乙女としてはトキメキが止まらないラインナップだ。
 
 王女殿下の為に出されたお菓子だ。見た目が美しいだけではなく、絶対に美味しいはず。ああ、食べたい……。

 しかし私は侍女。食べたい気持ちは押し込めて仕事に徹する。……でもちょっと食べてみたい。お腹が鳴りそう。

 私、アナベル・リントンは、優秀な(・・・)侍女なので、そんな葛藤を顔には出さない。この日も完璧に給仕に徹していた。

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