光の向こうに
第一章 ひかり

気持ち

「行って来まーす」

中3の秋のことだった。

伊藤 舞。

「あっ、舞ちょっと!」

「…なぁに?お母さん」


あたしにはお父さんがいない。

あたしが産まれる前に
ガンで死んだ。

顔も知らないあたしは
お母さんが唯一の親だった。


「うん…お母さん再婚しようと思うのよね!」

―再婚―

「…っえ?再婚…?」


母子家庭だったあたしに
お父さんという存在が出来る。

男が1人増える。

「待って!話が読めない!」

「大丈夫よ。優しい人だし、息子さんもいるらしいのよ」


…息子?

「うそ、おと…うと?」

「やだ、舞ったら!」


勢いよく頭を叩かれた。

いや、叩くタイミング違う。

「…確か高1かしら?舞、受験のこと聞けるじゃない!」

「いや…そうゆう問題?」


ありえない。

いきなり再婚って言われて
新しいお父さんとお兄ちゃん
なんて考えられない。

「…いや!」

「ちょ…舞ったら!」

「遅刻するから!じゃあ!」


あたしはお母さんの話を
無視して家を出た。

考えられなかった。

血の繋がってない人と生活
するなんて無理すぎる。

「もー…!馬鹿じゃないの」

あたしは鞄から定期を
探しながらまだ怒っていた。

「よっ!おはよ」

「あ、啓太!おはよー」

高杉 啓太。

啓太は小学校からの幼なじみ。


中学校生活を全部サッカーで
埋め尽くしてた。

『サッカー馬鹿』

「舞、見たかよー!昨日のナイジェリア戦!燃えたな…」

「見ないしっ。あんたみたいにサッカー馬鹿じゃないんで」

「…ぅあ!つめてー!」


冷たくしてる訳じゃない。
冷たくしたくなる。

「舞、元気なくね?どうしたんだよー!」

「…え?そ、そうかな?」

「うん!いつもはもっと笑ってるじゃん!」


ほらね、何も言わないのに
あなたはすぐあたしの
気持ちをわかってくれる。

7年間の片想い―
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