「めでたし めでたし」から始まる物語

10.愛の劇場3

 真実の愛――

 王太子殿下とその恋人は皆に『祝福された(認められた)』と思っているようですが、それは違います。『祝福』ではなく『嘲笑』しているのです。果たしてその事に当事者の二人は何時気付くのでしょうか?


 ソニア嬢は、王太子殿下を愛しています。
 それは確かでしょう。

 ただ、華やかで愛らしい容貌の彼女は愛を求めすぎた。

 一つの愛では満足できなかった。
 他者に向けられた愛を欲してしまった。
 それがとても素晴らしいものだと思ってしまったから。
 思うのは悪くありません。
 ですが、それを奪うのは良くなかった。

 彼女は貪欲なほどに愛を求めた結果、様々な男性を渡り歩きその愛情を手中に収めてしまいました。
 時には卑怯な手段で手に入れたものもあったでしょう。ですがそんな方法で手に入れたものは本物だったのでしょうか?

 愛とは本当に恐ろしいものですわ。
 時にそれは呪いのような力を持つのですから。

 王太子殿下はどれだけ説得されてもソニア嬢を手放す事はないでしょう。
 周囲の気遣いを無にするように――そして己自身も傷付く可能性を考えないようにして。
 平民の少女を妃に迎えた後の事を想像できない王太子殿下ではないでしょうに。それとも本当に理解していないのかもしれません。恋に目が眩んで――。
 本当に、恋とは人を愚かに変えてしまうものですわ。

 もしも……ええ、もしも、です。
 ソニア嬢が妃になり、子供が生まれたらとは考えないのでしょうか?
 皆が喜ぶと思っているのでしょうか?
 今でも蔑みに眼差して見られていますのに?

 その子は生まれた瞬間から『嘲笑と軽蔑の対象』として見られます。
 親のせいで何の罪のない子供が大勢に白い眼で見られるのです。
 それも想像した事がないのだとしたら……なんと愚かな事でしょう。
 そんな愚か者を誰が王にしたいと望むでしょうか。

 けれど、私は安堵しております。
 どれほど愚かであろうとも王太子殿下は元婚約者。幼い頃は仲良く遊んだ間柄。全く知らない仲ではありませんもの。愛情はなくとも情はあります。
 私と結婚し、国王になったとしても彼は長くはなかったでしょう。
 王家が欲したのは私の血。
 私の血を受け継ぐ次代。

 知ってましたか?
 私が貴男の子供を産めば、貴男はその時点でお払い箱だったのですよ?
 予定では結婚後、五年以内に急な病で倒れ、数年後に儚くなる事になっていました。子供は二~三人いれば十分。数年間を病魔と闘い、命が尽きるという筋書きでした。

 夫亡き後、私は未亡人として次に王になる幼い子供達を育てる。そうして我が公爵家は幼い王太子を支える。

 私も若くして未亡人にならずにすんで良かったですわ。

 ですから殿下、私は応援していますよ。
 お二人がどこまで愛し支え合う事ができるのか。

 外野からゆっくり見物させていただくことと致しましょう。
 ふふふ……私、こう見えて劇も好きでよく鑑賞しているんです。
 ああ、楽しみです。



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