俺様御曹司は逃がさない
「チッ。ま、あんな安物であんだけ作れれば悪くないんじゃない?庶民にしては上等でしょ」


偉そうな顔をしている九条に不思議とイライラもしないし、言い返そうとも思わない。

これは……“美味しい”って褒められたから?

だとしたら、あたし単純バカすぎるでしょ……。


「ハイハイ、どうもありがとうございまーす。これ、さっさと受け取ってくれる?」


再び4000円を差し出した。


「いらん」

「と言われても困ります」


後々あれこれ言われたくないし、お金のいざこざほど怖いものはない。


「……まぁ、なんつーか……4000円の価値はあったんじゃねーの?だから要らん。じゃーな」

「いやっ、ちょっ……!!」

「あ、話がややこしくなるのダルいから、契約のことは間違っても話すなよ~」


ニヤッと笑いながら去って行った九条の車を、ただただ眺めるだけのあたし。


「……あんな契約の話、家族に話せるわけがないでしょ……」


あのニヤけ面のせいで、料理を褒められたことに対してのちょっとした喜び的なものが、一瞬にして消え失せた。


・・・・こうしてあたしと二重人格男(猫かぶり九条)は“契約”という名の“縛り”で繋がってしまった。

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