身代わりで嫁いだお相手は女嫌いの商人貴族でした
 部屋に案内されたが、その一室はあまりに豪奢で、アメリアは腰を抜かしそうになった。だが、きっとカミラならば大喜びするだろうな……そう思いつつ、彼女は小さくため息をつく。

「何かお気に召さないことでもございますか……?」

 そのため息をリーゼに聞かれてしまい、ハッとなるアメリア。

「いえ、いいえ。そうではないのです。このような素晴らしいお部屋に、その、一晩お世話になるのだとしても、その……」

「一晩? この先もこのお部屋はアメリア様のものでございますが……?」

「は、はい……」

 わたしは、もしかしたら明日には追い出されてしまうかも……とは言えず、口ごもるアメリア。駄目だ。そんな弱気では。自分はどうにかここでバルツァー侯爵に気に入ってもらわなければいけないのに……そう思うが、どこかでそれを無理だと思う。

 リーゼは「クローゼットに参りましょう」と言って、彼女を案内する。部屋を出て、更に2つ隣の扉を開けば、そこは大量のドレスや靴が並ぶクローゼットになっていた。部屋そのものがそんなものになっているなんて、と驚き固まるアメリア。

「バルツァー侯爵家では、お部屋にあるクローゼットに三日分の衣類を置いて、日々ご自身で着用していただいております。元になるクローゼットはここになります。ですが、これはバルツァー侯爵のご意向ですので、アメリア様に関してはご自由にとのことです。日々ここからわたしが選んでお持ちすることも出来ますし、勿論アメリア様がご自由にここでお選びになっても構いません」

「はい……」

「アメリア様のドレスのサイズがわかりませんでしたので、3つのサイズをご用意しておりました。見たところ、一番小さいサイズで良さそうですね。明日用にお好きな雰囲気のものもお選びいただいて、今から何着かお部屋にお持ちになっても構いません」

「そう、ですか……」

 すっかり困惑したが、今自分が着用しているドレスは2日連続で着ているため、明日は着替えたいと思う。申し訳ないと思いつつ、アメリアは比較的簡素でシンプルな水色のドレスを「明日用」に選んだ。それを元にリーゼは更にドレスを2着ほど、それから室内着を選び、他の侍女に部屋へと運ばせる。

 アメリアは一旦室内着に着替えさせられた。残念ながらドレスも室内着も、彼女の体には少し大きい。細い腕は二の腕の袖口を余らせてしまうし、腰も、胸も、ゆとりがありすぎた。しかし、一番小さいサイズで用意されたせいで、少し丈は短い。アメリアは「少しは肉がついたと思っていたが、まだまだ自分は貧相なのだ」と溜息をついた。
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