ジングルベルは、もう鳴らない
「畑中さんには言ったけれど、私が許せなかったのは嘘をつかれていたこと。何がきっかけで二人で会うようになったのかは知らないし、毎度何を楽しくお喋りしていたのかも知らない。粗方、私の悪口を零してたんでしょうけど」
「そんなこと、ないよ。樹里、そんなことは」


 千裕が必死に否定する。今更そうされたって遅い。樹里は、冷ややかな目を彼に向けた。


「千裕。もうやめたら? 樹里の言う通りよ。千裕は毎回、アンタの愚痴を言うために、そのためだけに私を呼んだ。アイツの会社の方がでかい。給料だってアイツの方がいい。それで結婚したら俺の面子が、とかねぇ。そんな話ばっかり」
「黙れ。そんなこと言ってねぇだろ」
「嘘。別れようかなぁ、って言ってたじゃない」


 別れようかと千裕が言った? そんなこと言うわけないじゃないか。千裕に視線を向けると、気不味そうに目を逸らした。あぁ、本当なんだ。樹里は、あからさまに大きな溜息を吐いた。もうどうだっていいわ、と言う声が震えている。見苦しい言い訳に聞こえるかも知れない。斎藤には見られたくないが、今この場で綺麗さっぱり終わりにしたい。


「ねぇ、小笠原さん……あなた、彼のこと好きなわけじゃないわよね? ただ、私のものが欲しかっただけ。私の幸せを壊したかっただけ。違う? 私のことが気に入らなかったのよね。だから、壊しちゃえとでも思ったんでしょ。何が気に入らないのか分からないけれど、どうしてかいつも私に突っかかってきてたものね」


 香澄は言い返さず、歯をキリキリさせた。千裕は、ポカンと間抜けな顔をして固まったまま。なるほどねぇ、と理解をしたのは朱莉だけ。彼女は全て見通したのだろう。女の醜い感情を。
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