ジングルベルは、もう鳴らない
「そう、だね」
「ん? 違うの」
「あぁいや、そうだよ」


 妙な間が空いていた。まさか……これを香澄と買いに行った? ネックレスに触れたままだった手に力が入り、思わず引きちぎりそうになった。


「店には一人で行ったんだけどさ。でも、皆に相談したの。だから、全部一人ってわけじゃないんだ。ごめんね」
「皆って?」
「あ、ほら。樹里の誕生日の前の金曜日。俺、同期会で箱根に行ったじゃん。その時にさ、どうだろうって相談して。帰って来てから、土曜の夜に買いに行ったんだ。本当に助かったよ。皆、調べたりしてくれてさ」


 それは覚えている。千裕が同期会に行った二十二日金曜日の夜。樹里は美食会という社内サークルで、イタリアンバルにいた。皆で食事を囲みながら談笑していた時に、彼から写真が送られて来たのだ。懐かしい同期の顔に、老けたなと顔を綻ばせ、お姫様のようにど真ん中に陣取った香澄に苛ついたんだった。あぁその時か。


「へぇ。皆に?」
「そう。ここがいいんじゃないか。誕生石はルビーだぞ、とかって。おっさんたちが携帯で検索し合ってさ。俺一人じゃ決められなかったから、頼もしかったよ。でも買いに行ったのは一人。一人だよ」

 何故、そう一人を強調するのか。樹里のアンテナの感度が、徐々に、徐々に上がっていく。でも、まだ問い詰めない。静かにコーヒーに手を伸ばす。千裕はいつも通りだが、もう少し掘れば何かが出る。そんな気がした。
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